ブルーパブ(醸造所併設飲食店)の開業に必要な免許と収益構造

助手セバスチャン

せっかく醸造所作るんならブルーパブにすべきですよね!

行政書士けいしー

気持ちはわかります。ただ、免許が一気に増えますよ。

助手セバスチャン

増える…? お酒を造る免許と、飲食店の許可があればいいのでは?

行政書士けいしー

それに加えて、深夜まで営業するなら警察署への届出、缶を持ち帰りで売るなら販売業免許が必要になることもあります。しかも設計段階で区画を決めておかないと後から取れない免許もあるんです。順番に整理していきましょう。

自社で醸造したビールを、その場で飲んでもらう。ブルーパブは、クラフトビール事業のなかで最も収益性を高めやすい形態です。卸売では1リットルあたり800円前後の単価が、直営店で提供すれば2,000円を超えます。同じビールでも、売り方で売上がまったく違ってきます。

しかしブルーパブは、製造業と飲食業という性質の異なる2つの事業を、1つの場所で同時に営む業態です。監督官庁は税務署、保健所、警察署にまたがり、それぞれが別の基準で審査します。しかも一部の手続きは、内装の設計段階で条件が決まってしまいます。

行政書士けいしー

この記事では、ブルーパブに必要な免許・許可を整理したうえで、特に混乱しやすい「自社ビールを店で出すのに販売業免許は要るのか」という論点を整理し、最後に飲食店とは異なる収益構造を見ていきます。

目次

ブルーパブとは?醸造所と飲食店の「二重の顔」を持つ業態

ブルーパブとは、醸造設備を併設し、自社で製造したビールをその場で提供する飲食店のことをいいます。醸造所に飲食スペースを設ける形と、飲食店に小型の醸造設備を導入する形の両方がありますが、法律上の扱いはどちらも同じです。

この業態の特徴は、1つの店舗のなかに、性格の異なる2つの事業が同居しているという点にあります。

一方は製造業です。酒税法にもとづく酒類製造免許を受け、税務署の管理下で酒類を製造します。製造数量の記帳、酒税の申告と納付、製造場の範囲の管理といった義務が発生します。

もう一方は飲食業です。食品衛生法にもとづく飲食店営業許可を受け、保健所の管理下で食事と飲料を提供します。衛生管理、食品衛生責任者の設置、施設基準への適合が求められます。

この二重性が、開業手続きを複雑にしています。それぞれの官庁が、それぞれの基準で、同じ建物を審査するのです。税務署は「製造場としてどこまでが対象か」を見ますが、保健所は「調理場と客席の衛生的な区分」を見ます。片方の要求に合わせて設計すると、もう片方で引っかかることがあります。

だからこそブルーパブの開業では、設計に着手する前に、複数の窓口を回っておくことが決定的に重要になります。図面ができてから相談すると、やり直しになる可能性が高い業態です。

必要な免許・許可の全体像

ブルーパブの開業に関わる主な手続きを整理すると、次のようになります。

手続き窓口必要になる場面
酒類製造免許(発泡酒またはビール)税務署ビールを製造する場合は必須
飲食店営業許可保健所食事や飲料を提供する場合は必須
深夜酒類提供飲食店営業開始届出警察署深夜0時以降に酒類を提供する場合
酒類小売業免許税務署持ち帰り販売を行う場合(後述の例外あり)
通信販売酒類小売業免許税務署ネット通販や通信販売を行う場合
防火管理者の選任・消防設備消防署収容人員や建物の条件に応じて

※このほか、食品衛生責任者の設置、開業に伴う税務署への届出などが必要です。

酒類製造免許については、年間の最低製造数量という要件があります。発泡酒の製造免許では年間6キロリットル、ビールの製造免許では年間60キロリットルの製造見込みが求められます。多くのブルーパブが発泡酒免許から始めるのは、この数量差によるものです。

見落とされやすいのが深夜酒類提供飲食店営業開始届出です。深夜0時を過ぎて酒類を提供する場合、営業開始の10日前までに警察署へ届け出る必要があります。届出制ではありますが、営業所の構造や設備に関する要件があり、用途地域による制限もあります。「夜遅くまで営業するつもりはない」という計画であっても、繁忙期に延長する可能性があるなら、あらかじめ確認しておくべきでしょう。

あわせて読みたい:クラフトビール醸造を始めるには?必要な免許と開業手順をわかりやすく解説

「自社ビールを店で出す」のに販売業免許は要るのか

ここが最も混乱しやすい論点です。結論から整理していきます。

酒税法の原則では、酒類の販売業を営もうとする者は、販売場ごとに税務署長の免許を受けなければならないとされています。これが酒類販売業免許です。しかし、ブルーパブが自社製造のビールを提供する場合には、いくつかの重要な例外があります。

例外の1つ目は、店内で飲用させる提供です。飲食店が客にその場で飲ませるためにお酒を出す行為は、酒類の販売業には当たらないと整理されています。居酒屋やバーが酒類販売業免許を持たずに営業できるのは、このためです。ブルーパブが客席でビールを提供する行為も、これに該当します。

例外の2つ目は、酒類製造者による製造場での販売です。酒税法第9条は、酒類製造者がその製造免許を受けた製造場において、製造免許を受けた品目の酒類を販売する場合には、販売業免許を要しないとしています。つまり、自分の製造場で、自分が造ったビールを売る分には、販売業免許は不要ということです。

この2つの例外を踏まえると、ケース別の整理は次のようになります。

ケース販売業免許
自社製造ビールを客席で提供する不要(飲食店営業許可で対応)
製造場において自社製造ビールを持ち帰り販売する不要となる場合がある
製造場外の店舗で自社ビールを持ち帰り販売する酒類小売業免許が必要
他社のビールや日本酒・ワインを客席で提供する不要(飲食店営業許可で対応)
他社のビールや他の酒類を持ち帰り販売する酒類小売業免許が必要
ネット通販で販売する通信販売酒類小売業免許が必要

ここで注意していただきたいのが、「製造場において」という条件です。免許を受けた製造場の範囲は、申請の際に図面で特定されます。したがって、持ち帰り販売を行う場所が製造場の範囲内なのか、それとも飲食店の区画なのかによって、結論が変わり得ます。

また、他社のクラフトビールをゲストタップとして置いたり、日本酒やワインを揃えたりする場合、客席での提供なら免許は不要ですが、持ち帰り販売をするなら小売業免許が必要になります。「うちは自社製造だから免許は要らない」と考えていると、ボトル販売を始めた時点で無免許販売になりかねません。

この領域は、製造場と飲食スペースの位置関係、販売する酒類の範囲によって判断が変わります。必ず所轄税務署の酒類指導官に事前相談してください。計画の内容を伝えれば、どの免許が必要かを具体的に教えてもらえます。

製造場と飲食スペースの区画——設計段階で決まる

前のセクションで触れたとおり、ブルーパブではどこまでが製造場で、どこからが飲食店かという区画の問題が生じます。そしてこれは、内装の設計段階で決まってしまう論点です。

まず、酒類製造免許の申請では、製造場の範囲を図面で明確に特定します。仕込釜、発酵タンク、貯蔵設備がどこに置かれ、どの範囲が製造場として管理されるのか。この範囲は税務署が把握し、製造数量の管理もこの範囲を前提に行われます。

さらに、酒類小売業免許を併せて取得する場合には、より厳格な区分が求められます。飲食店の区画と販売場の区画は明確に区分されている必要があり、具体的には壁や扉で仕切る、フロアを分けるといった物理的な区分が求められます。加えて、在庫の保管場所も分離する必要があります。飲食店で提供するための在庫は飲食店区画内に、販売用の在庫は販売場内に置く、という管理です。

これらは、いずれも後から変更するのが難しい要素です。壁を1枚足すだけでも工事が必要ですし、レイアウトによっては客席数が減ります。「開業してから持ち帰り販売も始めよう」と考えていたら、区画が分けられておらず免許が取れなかった、というのは実際に起こり得る事態です。

したがって、実務上の鉄則はこうなります。将来やるかもしれないことも含めて、設計前に相談する。

  • 客席でビールを出すだけなのか
  • 缶やグラウラーでの持ち帰り販売もするのか
  • 他社の酒類も扱うのか
  • ネット通販も視野に入れているのか

これらを整理したうえで、税務署の酒類指導官、保健所、消防署の3か所に図面を持ち込んでください。相談は無料です。設計料を払って図面を描き直すコストに比べれば、この一手間は圧倒的に安く済みます。

ブルーパブの収益構造——醸造の固定費を飲食で支える

最後に、収益構造の特徴を見ていきます。ブルーパブは、通常の飲食店とは異なる原価構造を持っています。

最大の違いは、提供するビールが仕入品ではなく自社製品であるという点です。一般的な飲食店が仕入れたビールを提供する場合、原価率は40%前後になることも珍しくありません。一方、自社で醸造する場合、原材料費は1リットルあたり150円前後、酒税が同155円前後ですから、合わせて約305円。これを1リットルあたり2,250円程度で提供すれば、原材料と酒税だけで見た原価率は15%を下回ります。

もっとも、これは製造にかかる人件費や水道光熱費、設備の減価償却を含まない数字です。それらを製造原価として織り込めば、実質的な原価率は25%前後に落ち着くと見るのが妥当でしょう。それでも仕入ビールに比べれば、大幅に低い水準です。

一方で、人件費は重くなります。通常の飲食店であれば、ホールとキッチンのスタッフで足りますが、ブルーパブには醸造を担当する人員が必要です。しかも醸造は専門性が高く、代替が効きにくい。FLコストで見ると、F(原価)は低くL(人件費)は高いという、飲食店としては独特の構造になります。

この構造から導かれる示唆は2つあります。

第一に、ビールの提供比率を上げるほど利益率が上がるということです。フードの原価率は一般的に35%前後ですから、売上に占める自社ビールの割合が高いほど、全体の原価率は下がります。フードは「ビールを飲んでもらうための脇役」と位置づけ、原価率を抑えたメニュー構成にするという設計も成り立ちます。

第二に、醸造設備を遊ばせないことが重要だということです。醸造にかかる人件費と減価償却は、造っても造らなくても発生する固定費です。店内で消費しきれない分は卸に回す、イベントに出店する、テイクアウト販売を行う。製造能力を使い切る出口を複数持つことが、収益を安定させます。

なお、具体的な収支の試算については、別記事で年間製造量ごとのシミュレーションを行っていますので、あわせてご覧ください。

あわせて読みたい:クラフトビール醸造所は儲かる?設備投資と収支シミュレーションを解説

まとめ:免許は組み合わせ、設計は前倒しで

ブルーパブの開業について、押さえるべき点を整理します。

①必要な手続きは複数の官庁にまたがること。税務署の酒類製造免許、保健所の飲食店営業許可、深夜営業なら警察署への届出、持ち帰り販売なら酒類小売業免許。それぞれ基準が異なりますので、並行して相談を進めてください。

②自社ビールを客席で出す分には販売業免許は不要であること。飲食店が客にその場で飲ませる提供は販売業に当たらず、また酒類製造者が製造場において自社製造の酒類を販売する場合も免許は要りません。ただし、持ち帰り販売や他社製品の小売を行うなら、小売業免許が必要になります。

③区画は設計段階で決まること。製造場の範囲、飲食店区画と販売場区画の区分、在庫の保管場所。これらは後から変えるのが困難です。将来やるかもしれないことも含めて、図面を描く前に相談してください。

ブルーパブは、手続きの多さでは相応に手間のかかる業態です。しかし、その分だけ収益性を高めやすい形態でもあります。免許は組み合わせで考え、設計は前倒しで相談する。この2点を守れば、準備は着実に進みます。

なお、免許の要否や区画の判断は、施設の具体的な構造と計画内容によって変わります。この記事は一般的な考え方を整理したものですので、実際の判断は必ず所轄税務署の酒類指導官および保健所にご確認ください。

助手セバスチャン

客席で出すだけなら販売免許は要らないけれど、缶で持ち帰ってもらうなら別、ということですね。設計前に相談しないと危ないというのがよく分かりました。

行政書士けいしー

そこが一番の要点です。壁を1枚どこに置くかで、取れる免許が変わりますからね。将来の展開まで含めて相談してください。

助手セバスチャン

よし、では区画を明確にするため、店の真ん中に川を流します!これなら誰が見ても別区画ですよね。

行政書士けいしー

問題はそういうことじゃないんですが…

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