飲食店の収支シミュレーション|席数・回転率・客単価から損益分岐点を計算する

助手セバスチャン

開業の事業計画を書いているんですが、売上の欄でペンが止まっちゃって……。とりあえず「月商300万円」って書いておけばいいですかね?

行政書士けいしー

それは一番やってはいけないパターンですね。金融機関に提出したら、まず「その300万円の根拠は何ですか」と聞かれますよ。

助手セバスチャン

うっ……。じゃあ、どうやって出せばいいんですか?

行政書士けいしー

飲食店の売上は席数・回転率・客単価の3つに分解して積み上げられます。今日はその計算方法から、損益分岐点の出し方まで一緒に見ていきましょう。

飲食店の開業準備で多くの方がつまずくのが、事業計画書の「売上予測」の欄です。近隣の同業店を見て「だいたいこれくらいだろう」と数字を置いてしまいがちですが、根拠のない売上予測は、融資審査で通用しないだけでなく、開業後の経営判断の物差しにもなりません。

飲食店の売上には明確な計算式があります。席数 × 回転率 × 客単価 × 営業日数、これだけです。それぞれの数字には業態ごとの目安があり、自分の店の条件を当てはめれば、根拠のある売上予測を組み立てることができます。

行政書士けいしー

この記事では、この3つの数字の見積もり方から、そこに費用を差し引いて損益分岐点を逆算し、「1日何人のお客さまに来ていただければ黒字になるのか」を割り出すまでの手順を、カフェと居酒屋の実例を交えて解説します。

あわせて読みたい:飲食店は儲かる?FLコストと原価率から見る収益構造を解説

目次

飲食店の売上は「席数×回転率×客単価×営業日数」で決まる

飲食店の月商は次の式で計算できます。

月商 = 席数 × 回転率 × 客単価 × 月間営業日数

たとえば20席の店で、1日あたり2回転、客単価3,000円、月25日営業なら「20 × 2 × 3,000 × 25 = 300万円」となります。冒頭でセバスチャンが書こうとした「月商300万円」も、こうして分解すれば根拠のある数字に変わります。

この分解が重要なのは、単に計算のためだけではありません。売上が計画に届かなかったとき、どの数字が原因なのかを特定できるからです。客数が想定どおりなのに売上が足りなければ客単価の問題ですし、客単価は取れているのに売上が伸びないなら集客の問題です。原因が分かれば、打つべき手も変わってきます。

もう一つ、実務上見落とせないのが融資審査への影響です。日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資の審査では、創業計画書の売上根拠が必ず確認されます。「席数◯席、想定回転率◯回転、客単価◯円で計算しました」と説明できるかどうかで、計画書の説得力は大きく変わります。近隣の競合店の状況や、自分の飲食業での経験値を根拠として添えられれば、さらに強い計画書になります。

なお、ランチとディナーで客単価や回転率が大きく異なる業態では、時間帯を分けて計算するのが基本です。ひとつの平均値でまとめてしまうと、実態からずれた数字になりやすいためです。

席数と回転率をどう見積もるか

坪数から席数を割り出す

物件を検討している段階では、まだ席数が決まっていないことがほとんどです。その場合は坪数から概算できます。目安は店舗全体の坪数 × 1.5席前後です。

より精度を上げたい場合は、厨房面積を差し引いて計算します。一般的な飲食店では厨房が店舗全体の3〜4割を占めるため、残りの客席部分の坪数に「1坪あたり2席前後」を掛けます。15坪の店で厨房が4坪なら、客席は11坪、席数は20席前後という計算です。

ただし、席数は多ければ良いというものではありません。席を詰め込みすぎると客席の居心地が悪くなり、結果として回転率も客単価も落ちます。また、席数が増えれば必要なスタッフ数も増えるため、人件費とのバランスも考える必要があります。

業態別の回転率の目安

回転率とは、1日のうちに1つの席が何回入れ替わったかを示す数値です。滞在時間の長さによって業態ごとに大きく異なります。

業態1日の回転率の目安平均滞在時間の目安
ラーメン店・立ち食い系4〜8回転15〜25分
定食店・ランチ主体の店3〜5回転30〜40分
ファストフード・カフェ(軽食中心)3〜4回転30〜60分
カフェ(滞在型)2〜3回転60〜90分
居酒屋1.5〜2.5回転90〜120分
焼肉店1.5〜2回転90〜120分
ディナー主体のレストラン1〜1.5回転120分以上

ここで注意したいのが、回転率は「満席が何回入れ替わったか」ではなく「実際に何人来店したか」から逆算するという点です。4人掛けのテーブルに2人で座ることは日常的に起こるため、常に満席が前提の計算をすると、売上を2〜3割過大に見積もってしまいます。上の表の目安は実績ベースの現実的な数値ですが、それでも計画段階では低めの数字を採用しておくほうが安全です。

回転率を上げる工夫としては、券売機やモバイルオーダーの導入による提供時間の短縮、メニュー数の絞り込み、席レイアウトの見直しなどが挙げられます。一方で、ゆっくり過ごすことに価値がある業態では回転率を無理に上げるべきではありません。その場合は次に説明する客単価で収益を確保する設計に切り替えます。

客単価をどう設定するか

客単価は、お客さま1人が1回の来店で支払う平均金額です。メニュー価格そのものではなく、実際に注文される組み合わせの平均である点に注意してください。1,000円のランチを提供していても、ドリンクを追加する方が半分いれば客単価は1,150円程度になります。

業態客単価の目安
カフェ(ドリンク中心)700〜1,200円
ランチ・定食店900〜1,300円
ラーメン店1,000〜1,400円
居酒屋3,000〜4,500円
焼肉店4,000〜6,000円
ディナー主体のレストラン5,000〜8,000円

計画を立てる際は、ランチとディナーを分けて客単価を設定することをおすすめします。同じ店でもランチは1,100円、ディナーは3,500円ということは珍しくありません。これを平均して計算すると、時間帯ごとの採算が見えなくなってしまいます。ランチは赤字でディナーで回収している、という構造の店も実際にあり、それを把握できているかどうかで営業時間の判断が変わります。

客単価の設計で意識したいのは、客数を増やすより客単価を上げるほうがコスト効率が良いという点です。客数を1割増やすには広告費や販促の手間がかかりますが、客単価を1割上げる施策は、すでに来店しているお客さまに対して行えます。

具体的には次のような方法があります。

  • ドリンクやサイドメニューを提案しやすいメニュー構成にする
  • セットメニュー・コースを用意して注文単価を引き上げる
  • 原価率の低いデザートやトッピングを追加提案する
  • 価格帯を3段階に分け、中間価格帯に注文を誘導する

なお、価格の表示方法には景品表示法上のルールがあります。「当店比」や根拠のない「地域最安値」といった表示は、思わぬトラブルにつながることがありますので注意してください。

あわせて読みたい:飲食店が気にすべき景品表示法の規制とは?よくある違反例と対策を解説

想定売上から損益分岐点を逆算する

売上の見込みが立ったら、次は損益分岐点売上高、つまり「利益がゼロになる売上のライン」を計算します。ここまで出して初めて、収支シミュレーションは事業計画として機能します。

計算の手順は3ステップです。

まず、費用を固定費変動費に分けます。固定費は売上に関係なく毎月発生する費用で、家賃・正社員の人件費・リース料・保険料などが該当します。変動費は売上に比例して増減する費用で、食材原価・アルバイトの人件費・水道光熱費の一部などです。

次に、限界利益率を求めます。

  • 限界利益率 = 1 -(変動費 ÷ 売上高)

最後に、損益分岐点売上高を計算します。

  • 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

具体例で見てみましょう。固定費が月100万円、変動費率が55%(=限界利益率45%)の店であれば、損益分岐点売上高は「100万円 ÷ 0.45 = 約222万円」です。月25日営業なら1日あたり約8万9,000円、客単価3,000円なら1日約30人が黒字ラインということになります。席数が25席であれば、回転率1.2回転を確保できれば赤字にならない、という具合に、現場で確認できる数字まで落とし込めます。

ここまで分解しておくと、開業後の判断が明確になります。「今日は25人だったから損益分岐点に届いていない」と日々把握できれば、対策のタイミングを逃しません。あわせて、想定売上が損益分岐点をどれだけ上回っているかを示す安全余裕率((想定売上-損益分岐点売上)÷ 想定売上)も計算しておくと、計画の余裕度が分かります。20%以上あれば比較的安定、10%を切る計画は見直しが必要と考えてよいでしょう。

収支シミュレーション実践|カフェと居酒屋の2ケース

ここまでの手順を使って、実際に2つのケースで通しの計算をしてみます。いずれも個人事業主による開業を想定し、店主自身の給与は人件費に含めず、営業利益が事業主の取り分として計算しています。

ケース①:15坪のカフェ(20席)

厨房4坪・客席11坪で20席、ランチとカフェタイムを分けて計算します。

時間帯客単価回転率1日の客数1日の売上
ランチ(11時〜15時)1,200円2.0回転40人48,000円
カフェタイム(15時〜19時)900円1.0回転20人18,000円
合計3.0回転60人66,000円

月26日営業で、月商は「66,000円 × 26日 = 1,716,000円」となります。ここから費用を差し引きます。

項目金額(月)売上比
売上高1,716,000円100%
食材原価▲ 515,000円30%
人件費(アルバイト分)▲ 550,000円32%
家賃▲ 200,000円12%
水道光熱費▲ 120,000円7%
その他経費(消耗品・広告・通信等)▲ 170,000円10%
営業利益(月)161,000円9%

年間の営業利益は約193万円です。決して余裕のある数字ではありません。カフェは客単価が低く回転率も上げにくいため、収益を確保しにくい業態の代表格です。

ただし、この計算式があると改善の効果も試算できます。たとえば客単価を100円引き上げるとどうなるか。1日60人なので1日6,000円、月に156,000円の売上増です。原価率30%を差し引いても約109,000円が利益に上乗せされ、営業利益は月27万円と、約1.7倍になります。客単価100円の重みが具体的に分かるはずです。

ケース②:20坪の居酒屋(25席)

厨房6坪・客席14坪で25席、ディナー営業のみのモデルです。

  • 客単価3,500円 × 回転率1.8回転 × 25席 = 1日45人・157,500円
  • 月25日営業で月商 約3,940,000円
項目金額(月)売上比
売上高3,940,000円100%
食材原価▲ 1,300,000円33%
人件費(社員+アルバイト)▲ 1,260,000円32%
家賃▲ 320,000円8%
水道光熱費▲ 280,000円7%
その他経費▲ 360,000円9%
営業利益(月)420,000円11%

このケースで損益分岐点も計算してみます。固定費(家賃32万円+固定的な人件費60万円+その他固定費20万円)を月112万円、変動費率を55%(限界利益率45%)とすると、損益分岐点売上高は「112万円 ÷ 0.45 = 約249万円」です。1日あたり約10万円、客単価3,500円なので1日約29人・回転率1.2回転が黒字ラインになります。

想定売上394万円に対する安全余裕率は約37%です。想定より3割程度売上が落ち込んでも赤字にはならない計画ということになり、比較的堅実な事業計画と評価できます。なお、居酒屋のように深夜0時を超えて酒類を提供する場合は、営業所の所在地を管轄する公安委員会への深夜酒類提供飲食店営業の届出が別途必要になりますので、営業時間を決める際にあわせて確認してください。

シミュレーションで失敗しないための注意点

収支シミュレーションでよくある失敗は、数字を都合よく置いてしまうことです。以下の点に注意してください。

満席想定で計算しない

最も多い失敗が、全席が常に埋まる前提で回転率を計算してしまうケースです。前述のとおり、4人席に2人で座ることは日常的に起こります。計画段階では業態別の目安の下限を採用し、それでも成り立つかを確認しておきましょう。

季節変動を織り込む

飲食店の売上は月によって大きく変動します。一般的に12月は繁忙期となる一方、8月や1〜2月は落ち込む傾向があり、月ごとの差は2〜3割に及ぶこともあります。年間の平均値だけで計画を立てると、閑散期に資金がショートするおそれがあります。月別に売上を予測し、最も苦しい月でも資金が回るかを確認してください。

開業直後の売上を過信しない

開業直後は「開店景気」で一時的に客足が伸びることがありますが、3か月目前後で落ち着くのが一般的です。逆に、認知が広がるまで半年程度かかる立地もあります。いずれにせよ、当初6か月は想定売上の7割程度で資金計画を立てておくと安全です。

運転資金を必ず確保しておく

上記を踏まえると、開業資金には設備投資だけでなく、最低3〜6か月分の固定費にあたる運転資金を含めておく必要があります。ここが不足したまま開業してしまうと、売上が軌道に乗る前に資金が尽きてしまいます。日本政策金融公庫の新規開業資金や、自治体の制度融資も検討しておきましょう。

まとめ:数字に根拠を持たせることが開業準備の第一歩

飲食店の収支シミュレーションは、次の手順で組み立てられます。

  • 坪数から席数を割り出す(店舗全体の坪数 × 1.5席前後)
  • 業態別の目安から回転率と客単価を設定する(ランチ・ディナーは分けて計算)
  • 席数 × 回転率 × 客単価 × 営業日数で想定売上を算出する
  • 費用を固定費と変動費に分け、損益分岐点売上高を計算する
  • 「1日何人・何回転で黒字か」まで落とし込む

大切なのは、シミュレーションを一度作って終わりにしないことです。開業後は実績値を当てはめて更新し、想定とのズレがどこにあるのかを確認していく。この繰り返しが経営の精度を高めていきます。

助手セバスチャン

すごい!「月商300万円」じゃなくて「25席×1.8回転×3,500円×25日で394万円」って言えるようになりました。急にプロっぽいです。

行政書士けいしー

その調子です。しかも損益分岐点まで出しておけば、「1日29人来ていただければ黒字です」と説明できます。融資の面談でも、そこまで答えられる方は強いですよ。

助手セバスチャン

よし、じゃあ回転率を10回転にして月商2,000万円の計画書を出してきます!

行政書士けいしー

居酒屋で10回転ということは、お客さま1組あたり滞在12分ですね。乾杯した瞬間に退店していただく計算になりますが。

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