観光庁は令和8年3月、「観光コンテンツの持続的供給に資する質的価値の維持向上事業」の公募要領を公表しました。増加するインバウンド需要を背景に、高品質・高付加価値な体験型観光コンテンツを地域で持続的に供給するための実証事業です。
行政書士けいしー本記事では、公募要領の内容をもとに、対象となる事業者や申請要件・経費規模・審査基準・申請の流れなどを詳しく解説します。
事業の背景と目的
2025年(令和7年)の訪日外国人旅行者数は4,268万人、観光消費額は約9.5兆円と、いずれも過去最高を更新しました。政府は2030年(令和12年)までに訪日外国人旅行者数6,000万人・観光消費額15兆円の達成を目標に掲げており、さらなる地方誘客が求められています。
しかし現状では、インバウンド需要の高まりに伴い観光コンテンツ市場に新規参入する事業者が増える一方、地域での質の差別化が不十分なため、価格競争に陥るケースも少なくありません。高品質な観光コンテンツの持続的供給こそが、観光客の満足度・評判を高め、リピーターや新たな誘客につながる重要な取り組みです。
そこで本事業では、体験型の観光コンテンツを扱う地域・事業者を対象に、専門家による伴走支援のもと、優良事業者認定制度の設計や観光コンテンツのブランディング構築など、高品質・高付加価値な観光コンテンツの持続的供給に向けた取り組みを実証します。
重要:補助金ではなく「観光庁の調査事業」
公募要領において特に強調されているのが、本事業は補助金や交付金による支援ではなく、観光庁の調査事業として実施されるという点です。事業実施者による取り組みを通じて得られた知見を他地域へ横展開するため、当該事業に要する経費を国費で負担する仕組みです。この点を十分に理解した上で申請してください。
申請対象者(応募資格)
事業実施者の対象となる申請者は、以下の5つの条件をすべて満たす者です。
- 体験型観光コンテンツを扱う事業者を構成員や連携先とする組織・団体・協議会等であること。複数の主体が申請する場合は代表事業者を定め、連携体制が明確であること。なお、観光コンテンツ事業者単体での申請は認められません。
- 観光庁またはその他の官公庁からの補助金交付等停止措置または指名停止措置を受けていないこと。
- 過去3年以内に情報管理の不備を理由に観光庁・その他官公庁等との契約を解除されていないこと。
- 実施体制内に、暴力団または暴力団員の統制下にある団体が含まれていないこと。
- 法令遵守上の問題を抱えていないこと(近年、補助金に関する不正行為に関係していないこと等)。
特に重要なのが1つ目の要件です。観光コンテンツ事業者単体での申請は不可とされており、DMO・観光協会・協議会など、複数の事業者・団体が連携した体制での申請が求められます。地域で一体となった取り組みを推進するという観点から、申請前に連携体制の構築・調整を十分に行っておく必要があります。
募集する事業内容(取り組みの4ステップ)
採択された事業者は、専門家による伴走支援のもと、KPIを定めた上で以下の4つの取り組みを実施します。
① 地域および体験型観光コンテンツの現状分析
外部環境・内部環境の両面から現状を把握します。外部環境の整理では市場分析や競合・ベンチマーク分析を、内部環境の整理では自地域・事業分析や商品特性分析などを実施します。
② 現状分析の結果に基づく課題解決のための取り組み検討
分析結果をもとに、高品質・高付加価値な観光コンテンツの持続的供給に必要な取り組みを具体化し、取り組み方針を定めます。
③ 検討を行った取り組みの実施・効果検証
検討した取り組みを実施し、効果を総合的に検証します。「仮説設定→取り組み実施→効果検証→仮説の再設定→取り組みの再実施」というサイクルを繰り返す試行が期待されています。
④ 中長期戦略の策定
効果検証の結果をもとに、地域における高品質・高付加価値な観光コンテンツの持続的供給に向けた中長期戦略を策定します。
また、事業終了後も本事業で実施した取り組み内容を継続的に活用・展開し、地域住民・観光客の双方の満足度および観光消費額の向上を目指すことが求められます。
経費規模(国費負担の上限)
本事業の最大の特徴は、事業実施に要する経費を国費(観光庁の調査事業費)で負担する点です。
- 1事業当たりの上限:7.5百万円(税込)
- 採択件数:5件程度を予定(二次募集の予定なし)
なお、採択件数の多寡や審査過程での書面審査・ヒアリング結果等を踏まえて、金額が調整される場合があります。
対象経費の詳細
以下の経費が対象となります。事業実施期間(令和8年度中、最長で令和9年1月31日まで)内に計上されたものに限ります。
| 経費項目 | 概要 |
|---|---|
| 人件費・賃金 | 本事業を行うために必要な人件費(報告書作成、評価・検証、モデルケース構築等)および臨時職員の賃金 |
| 旅費 | 実証事業等を行うために必要な出張等に係る経費(航空機のファースト・ビジネスクラス、列車のグリーン料金等の特別料金は計上不可) |
| 謝金 | 会議等に出席した外部専門家等への謝金。国の支出基準を超えないこと |
| 広告宣伝費 | 当該事業の魅力発信に向けた企画・開発・広報等に必要な費用(Webサイト・パンフレット制作費、SNS運営費、メディアへのリリース費用等) |
| 借料及び損料 | 実証事業等を行うために必要な機械器具、会場、物品等のリース・レンタルに要する経費(機材の新規購入は不可、リース対応が必要) |
| 消耗品費 | 実証事業等を行うために必要な消耗品(紙、封筒、ファイル、文具等)の購入に要する経費。本事業等のみで使用されることが明確に確認できるものに限る |
| その他諸経費 | 通信運搬費、光熱水料、振込等手数料、翻訳通訳、速記費用、印刷費等 |
| 再委託費 | 事務局との取決めにおいて、事業実施者が実証事業等の一部を当該事業者以外に行わせるために必要な経費 |
対象外経費の主な例
- 国・都道府県・市町村等からすでに補助金・委託費等が支払われている活動に関する経費
- 建物等施設の建設・改修に関する経費
- 耐久消費財や用地取得等、本事業の範囲に含まれ得ない経費
- 営利のみを目的とした活動に係る経費
- コミュニティファンド等への初期投資(シードマネー)・出資金
- 事業実施者における経常的な経費(人件費・家賃・保証金・光熱水費・通信料等)
- 事業として当然備えているべき機器・備品(机、椅子、書棚等)
- 親睦会に係る経費
- 国の支出基準を上回る謝金費用
- 本実証事業の申請に要した費用
機材等については、購入ではなくリースで対応することが求められている点に注意が必要です。また、人件費・広告宣伝費・再委託費については観光庁が過大と判断した場合にヒアリングで詳細確認が行われます。
申請の流れとスケジュール
本事業の申請・採択までの流れを時系列で整理します。
■ スケジュール概要
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 令和8年3月26日(木) | 公募開始・質問受付開始 |
| 令和8年4月23日(木)12:00まで | 質問受付締切 |
| 令和8年4月24日(金)15:00まで | 申請書類の提出締切(必着) |
| 令和8年5月中旬(予定) | 採択事業の公表 |
| 採択後〜令和9年1月31日 | 事業実施期間(実証事業・付随業務) |
申請書類の準備
申請には以下の6種類の様式が必要です。各様式は観光庁WebサイトからダウンロードできるExcel形式・PowerPoint形式で作成し、いずれもPDF形式に変換した上で提出します。
- 様式1:応募申請書 申請団体名、代表者名、事業名等を記載
- 様式2:申請団体概要書 申請団体の概要および規約等を添付
- 様式3:事業計画書 4つの取り組み内容、KPI、実施体制等を詳細に記載
- 様式4:事業スケジュール 現時点での実証事業のスケジュール(様式3との整合性が必要)
- 様式5:費用積算書 事業に係る経費の詳細を記載
- 様式6:事業概要説明書 事業の概要を1枚で分かりやすく記載(公表前提のため画像は公表可能なものを使用)
提出方法
申請書類の提出は電子メールのみで受け付けています。紙媒体やCD-ROMによる郵送・持込みは不可です。
審査・採択の流れ
提出された書類に基づき、専門家により構成される選定委員会が審査を行います。書面審査に加え、必要に応じてオンラインによるヒアリングが実施されます。ヒアリング対象となった申請者には観光庁または事務局から別途連絡が入ります。
審査は「形式審査」と「内容審査」の2段階で行われます。
形式審査
申請主体が申請対象者の要件を満たしているか、申請活動が募集する事業内容の要件を満たしているかを確認します。
内容審査(必須項目)
以下の4つの観点から審査されます。
| 審査項目 | 審査の観点(一部抜粋) |
|---|---|
| ①事業目的の理解度 | 事業目的を深く理解した提案となっているか、事業計画が的確なものとなっているか |
| ②取組内容の的確性 | 地域の現状分析・外部環境・内部環境の分析が具体的か、質の差別化取り組みが中長期的視点で持続可能な内容となっているか、KPIが設定されているか、他地域への横展開に寄与する内容が含まれているか |
| ③事業遂行の確実性 | 実施体制が目的達成と円滑な遂行に必要な組織・人員等を備えているか、許認可等の関係者調整が取れているか |
| ④地域への貢献 | 取り組みが地域の観光振興で重要な役割を担うものといえるか、地域経済の活性化に繋がるものとなっているか |
【内容審査(加点項目)】以下の場合は加点評価されます。
- 先駆的DMO等、観光庁が登録した「登録観光地域づくり法人(DMO)」が実施体制に参画している場合
- 質の差別化取り組みが地域一体となったスケールメリットを活かした取り組みとなっている場合
- 地域において既に実施している他の取り組みや今後予定している取り組みと本事業との相乗効果が大きいと認められる場合
申請にあたってのポイントと注意点
ポイント①「補助金ではない」という本質を理解した申請を
本事業は「調査事業」であり、事業終了後に得られた知見は観光庁によって他地域へ横展開されます。申請書類には「本事業を通じて得た知見が全国的な横展開にどう寄与するか」という視点が強く求められています。単に自団体の利益や地域内の課題解決のみを訴えるのではなく、モデル事例としての汎用性・横展開の可能性を丁寧に示すことが採択のカギです。
ポイント②「観光コンテンツ事業者単体」での申請は不可
申請要件として、観光コンテンツ事業者単体での申請は認められません。DMO・観光協会・地方公共団体・商工会等を含む複数の主体が連携した体制が必要です。申請前に連携先との体制構築・調整を確実に完了させておくことが必須であり、申請書に虚偽記載があった場合(無断で他者の名称を使用した場合等)は申請無効となります。
ポイント③ 事業計画の変更を前提とした柔軟な姿勢で申請を
本事業では、選定過程及び選定後において、専門家による伴走支援の結果、申請内容(提案内容)を変更していただく場合があると公募要領に明記されています。これは本事業の大きな特徴の一つです。申請時点での計画はあくまで「仮の計画」として捉え、専門家の指導のもとで柔軟に見直せる姿勢を持っておくことが重要です。
ポイント④ 機材の購入はリースで代替
事業実施において機材や装置等が新たに必要となった場合は、購入ではなくリースによる対応が求められます。耐久消費財の購入は対象外経費とされているため、費用積算書を作成する際は機材コストをリース料として計上するよう注意してください。
ポイント⑤ 外的要因(災害等)を考慮した現実的な計画を
公募要領では、災害等の外的要因によって当初の計画どおりに事業を実施できない場合を考慮し、経費計上期間(実施期間)内に実施できる蓋然性が低い計画とならないよう注意することが求められています。特に令和9年1月31日という実施期間の制約を踏まえ、余裕のあるスケジュールを設定してください。
ポイント⑥ 自然環境を活用した取り組みは事前確認が必須
自然環境を活用した体験型観光コンテンツを事業に盛り込む場合は、都道府県の環境保護担当部局への事前相談と事業内容が実現可能であることの確認が義務付けられています。また、許認可が必要な地域資源の活用を前提とした取り組みを記載する場合は、所有者や管理者等の関係者への事前相談・同意取得を経て、連携事業者として共同申請する必要があります。
ポイント⑦ 採択後の情報公開・著作権への理解
選定された実証事業については、団体名・事業内容等が観光庁Webサイトで公表されます。また、事業の成果物(事業実施報告書等)に関する著作権は原則として観光庁に帰属します。事業実施を通じて知り得た情報については、事業終了後も秘密を保持し、本調査事業以外に使用しないことが求められます。
ポイント⑧ 経費の証拠書類管理を徹底
対象経費については、事業等に係る経理を他の経理と明確に区別し、収支の事実を明確にした証拠書類(契約書、支払い領収書等)を整理・保存しなければなりません。事業終了後1年間は保存が必要で、精算の際には証拠書類の写しを提出します。適切かつ効率的に支出されたと明確に確認できない場合、精算対象とならないことがあります。
まとめ
「観光コンテンツの持続的供給に資する質的価値の維持向上事業」は、体験型観光コンテンツの高品質化・ブランディングに取り組む地域の組織・団体にとって、最大750万円の国費支援を受けながら専門家の伴走支援も得られる大変貴重な機会です。
一方で、「補助金ではなく調査事業」という性格上、事業で得た知見は他地域への横展開に活用されること、申請内容が専門家の指導で変更される可能性があること、機材のリース対応が必須であることなど、一般的な補助金とは異なる点が多くあります。
申請締切は令和8年4月24日(金)15:00(必着)と残り時間が限られています。申請を検討する場合は、まず観光庁のWebサイトから公募要領・各様式をダウンロードし、連携先との調整や事業計画の検討を速やかに進めることをお勧めします。
※本記事は令和8年3月公表の公募要領をもとに作成しています。詳細・最新情報は観光庁の公式Webサイトにてご確認ください。









