オーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめとする観光地の面的受入環境整備促進事業とは?

訪日外国人旅行者の急増により、一部の観光地では過度な混雑やマナー違反など、いわゆる「オーバーツーリズム」の問題が深刻化しています。こうした状況に対応するため、観光庁は令和8年度においても「オーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめとする観光地の面的受入環境整備促進事業」の公募を実施しています。

行政書士けいしー

本記事では、この補助金の概要から申請要件・補助金額・対象経費、申請から採択までの流れ、そして申請にあたってのポイントと注意点まで、実務に役立つ情報を詳しく解説します。

目次

補助金の概要・目的

本補助金は、観光庁が所管する令和8年度の事業で、予算規模は100億円です。地方公共団体や観光地域づくり法人(DMO)、民間事業者等が、地域の観光課題(過度な混雑・マナー違反・受入環境不足など)に対応するための取り組みを支援することを目的としています。

単なる一時的な混雑対策にとどまらず、中長期的な視点で「観光を我が国における戦略産業として持続的に発展させていく」という方針のもと、地域一体となったソフト・ハード両面の取り組みを支援する点が特徴です。

事業類型:「地域一体型」と「一般型」の違い

本事業には、目的や体制に応じた2つの類型が設けられています。どちらの類型で申請するかによって、補助率・上限額・要件が大きく異なります。

① 地域一体型

地方公共団体または登録観光地域づくり法人(登録DMO)が中心となり、地域の多様な観光関連事業者等と連携しながら、面的な受入環境整備を行う類型です。

項目内容
申請主体地方公共団体 または 登録観光地域づくり法人(登録DMO)
補助率補助対象経費の 2/3以内
補助上限額2億円
主な特徴協議会等「協議の場」の設置が必須。地域全体での対策計画策定・実施が求められる

申請主体が登録DMOの場合は、関係する地方公共団体との連携が必要です。また、補助対象事業者として民間事業者等も補助事業を実施することができます。

② 一般型

地方公共団体・登録DMO・民間事業者等が、各地域の観光課題に対応するために実施する具体的な取り組みを支援する類型です。

項目内容
申請主体地方公共団体、登録DMO、民間事業者等(候補DMOも可)
補助率補助対象経費の 1/2以内
補助上限額5,000万円
主な特徴地方公共団体以外が申請する場合は関係地方公共団体との連携が必要

一般型は申請のハードルが比較的低く、民間事業者でも単独で申請できる点が大きなメリットです。ただし、補助率・上限額ともに地域一体型より低く設定されています。

補助対象経費と対象事業の具体例

本補助金では、地域の観光課題に対応した幅広い取り組みが補助対象となります。以下に主なカテゴリーと経費例を紹介します。

① 特定スポットにおける過度な混雑への対策

  • 事前予約システムの整備・導入に係るシステム開発費・導入費・実証運用費(導入初年度のみ)
  • 入場規制に関する制度設計費(調査費、地域における協議費用を含む)
  • 入場規制用ゲートの設置費用
  • 駐車場の整備費用(料金システム導入費を含む)
  • デジタルマップ上での混雑情報リアルタイム発信費用
  • 広域的な分散に係る取り組み(プロモーション費用等を含む)
  • 閑散時間帯への誘致に向けた体験型コンテンツ造成費用

② マナー違反行為の防止・抑制

  • スマートごみ箱の整備・実証運用費(導入初年度のみ)
  • 違反行為監視用AIカメラの整備・実証運用費(導入初年度のみ)
  • 撮影スポットの整備費(スポット位置選定に係る調査費等を含む)
  • マナー啓発物の作成費・デジタルサイネージの設置費
  • 地域の魅力とマナー啓発情報を一体的に発信するプロモーション経費

③ 観光動線における受入環境整備

  • 観光情報の多言語発信に係る経費
  • 無料公衆無線Wi-Fiの整備費用
  • キャッシュレス決済環境の整備費用
  • 外国人観光案内所の整備・改良費用
  • 観光客向けバス路線の整備費用(車両購入費、キャッシュレス端末整備等)
  • 移動手段の導入費用(モビリティ購入費、充電ポート整備等)
  • 手ぶら観光カウンターの整備・機能向上費、手荷物預かりシステム導入費

④ 現状把握・分析・制度検討

  • 人流把握・予測のための調査分析費
  • 新たな制度導入の検討に当たっての専門家意見聴取費用
  • 取り組みに関する効果検証費用

⑤ 地域住民との協働

  • 協議の場の開催に必要な経費(会場費等)
  • 住民意見を反映するためのアンケート実施費用
  • 住民向け説明会の実施費用
  • 観光施設と住民間交流プログラムの造成費

補助対象外となる主な経費

以下の経費は補助対象外となりますので注意が必要です。

  • 補助対象事業者の経常的な経費(人件費・旅費・家賃・光熱水費・通信料等)
  • 過年度から継続して実施している事業の運用費
  • 同一事業に対して国から別途補助金が支給されている場合
  • 不動産の購入に係る経費
  • 特典としてのポイント付与や料金割引の補填
  • 法令や条例等で義務化されている設備等の導入費
  • 事業期間外(交付決定前・完了実績報告後)に発生する経費
  • 振込手数料・収入印紙・親睦会費用

申請から採択までの流れ・スケジュール

本補助金の申請から採択・交付決定・事業完了までの流れを整理します。

全体スケジュール(令和8年度)

時期内容
令和8年2月25日(水)公募開始
令和8年3月5日(木)15:30〜公募説明会(オンライン)開催
令和8年4月17日(金)12:00【事前着手届出制度を利用する場合の締切】
令和8年5月29日(金)12:00【計画申請受付締切】締切厳守
令和8年6〜7月頃審査・採択(選定委員会による審査)
令和8年7月以降交付決定・事業開始
令和9年2月26日(金)12:00事業完了期限

STEP1:申請書類の準備

申請にあたっては、申請主体が以下の書類一式をとりまとめて提出します。

  • 様式1:申請主体情報・補助事業一覧
  • 様式2:事業概要
  • 様式3:連携する地方公共団体の同意書(必要な場合)
  • 様式4:個別事業概要
  • 様式5:経費計画(費用積算書)
  • 様式6:事業スケジュール
  • 様式7:事前着手届出書(事前着手届出制度を利用する場合のみ)

複数年度計画認定制度を申請する場合は、様式4〜6にそれぞれ「B」の様式が追加で必要になります。書類が揃っていない場合は原則として申請が受け付けられませんので、余裕をもって準備しましょう。

STEP2:計画申請の提出

計画申請の提出方法は、令和8年度政府当初予算の成立後、5月中旬頃に観光庁ホームページおよび本公募要領の改訂版で案内される予定です。提出先や手順が公表され次第、速やかに対応できるよう準備を進めておきましょう。

STEP3:審査・採択

提出された書類は、外部有識者・地方運輸局観光部等を構成員とする選定委員会において総合的に評価されます。公募締め切り後、必要に応じて申請主体等に対するヒアリングが実施される場合もあります。審査の結果、申請内容の一部のみが採択される場合や条件付き採択となる場合もあります。

STEP4:交付申請・交付決定

採択後は、補助対象事業者から補助事業ごとに交付申請を行います。事務局から「補助金交付決定通知書」が発出されて初めて、補助事業に着手することができます(事前着手届出制度を利用する場合を除く)。

STEP5:事業実施・完了実績報告

交付決定後に事業を実施し、令和9年2月26日までに完了させる必要があります。事業完了後は、所定の期日までに完了実績報告を提出します。この報告が確認されない限り、補助金は交付されません。

事前着手届出制度・複数年度計画認定制度

事前着手届出制度

本来、補助事業への着手は交付決定後でなければなりませんが、観光地での問題解決には緊急性が求められるケースも多いため、「事前着手届出制度」が設けられています。

この制度を利用することで、事前着手届出の受理通知発出日以降かつ令和8年度政府当初予算が成立した日以降に発生した経費についても、補助対象経費として認められる場合があります。

ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 届出が受理されても、採択・補助金交付が保証されるものではありません
  • 不採択となった場合、支出した費用は全額自己負担となります
  • 届出受理前に発注等を行った経費は補助対象外です
  • 事前着手届出を利用する場合の締切は令和8年4月17日(金)12:00です

複数年度計画認定制度

大規模な施設改修など、単年度では完了が不可能な取り組みに限り、最大3年間の複数年度計画認定制度を申請することができます。計画が採択された場合、2年目以降は予算の範囲内で優先的に採択されることが想定されています。

ただし、複数年度計画が認定されても、翌年度以降の採択・補助金交付が約束されるものではない点に留意してください。

審査のポイント・加点要素

審査では以下の観点が重視されます。申請書類の作成にあたっては、これらのポイントを意識することが採択への近道です。

共通の審査観点

  • 地域の現状・実情を適切に把握できているか(課題の発生場所・時期・原因の分析)
  • 課題を改善・解決するために必要な取り組み内容となっているか
  • 適切な実施体制が構築されているか(むやみな委託が生じていないか)
  • 具体性・計画性があり、十分な効果が期待できるか(KGI・KPIの設定)

加点対象となる要素

  • 広域連携DMOが策定する広域連携観光戦略に基づいた実施計画に位置付けられた取り組みであること
  • 申請主体が日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)ロゴマークを取得している、または取得予定であること
  • (地域一体型)協議会(既存会議の組み合わせを含む)を設置した上で取り組みを検討・実施する場合
  • (一般型)地域一体型の協議の場において議論された事業であること

申請にあたっての重要ポイントと注意点

ポイント①:類型選択は慎重に

地域一体型は補助率・上限額ともに有利ですが、協議の場の設置や対策計画の策定など要件が厳しくなっています。民間事業者が単独で取り組む場合は一般型が現実的ですが、地域全体での取り組みを視野に入れられるなら、自治体やDMOを巻き込んで地域一体型での申請を検討する価値があります。

ポイント②:KGI・KPIの設定が審査に直結する

審査では「適切なマネジメント指標(KGI・KPI)が設定されているか」が明示的に評価されます。「何を実施するか」だけでなく「どんな効果を、いつまでに、どの程度達成するか」を数値で示せるよう準備しましょう。例えば、「〇〇地点における混雑ピーク時の滞留人数を△△人以下に削減」「外国人来訪者の満足度を□□%向上」などの指標が有効です。

ポイント③:地域住民の意見を取り込む仕組みを明確に

特に地域一体型では、地域住民の意見を取り込む方法を取り入れることが必須要件です。単にパブリックコメントやアンケートを実施するだけでは「地域住民との協議を十分に実施した」とは認められません。住民や地域住民代表団体(自治会・住民団体等)が参画する協議会の設置、または個別の協議の場の設定が求められます。

ポイント④:関係経費の取り扱いに注意

補助対象事業者の自社調達や関係会社からの調達がある場合、取引価格から利益相当額を控除した金額が補助対象経費となります(利益等排除)。関係会社からの調達を予定している場合は、財務諸表等規則に基づく関係会社の範囲を事前に確認しておきましょう。

ポイント⑤:消費税の取り扱い

課税事業者の場合、原則として補助対象経費に消費税額を含めることができません。ただし、免税事業者・簡易課税事業者・地方公共団体の一般会計事業者等は例外として消費税を補助対象経費に含めることができます。自社の消費税の課税区分を事前に確認しておくことが重要です。

ポイント⑥:書類の正確性と整合性

提出書類に虚偽の記載があった場合は申請が無効となるだけでなく、採択後に発覚した場合は補助金交付決定の取消・返還命令、さらには5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。申請内容は事実に基づいて正確に記載し、書類間の整合性を十分に確認してください。

ポイント⑦:補助事業関係書類は5年間保存

補助事業に関係する帳簿および証拠書類は、事業完了年度の終了後5年間保存する義務があります。会計検査院による実地検査等に対応できるよう、発注・契約・支払いに関する書類は整理して保管しましょう。

ポイント⑧:他の補助金との重複不可

同一内容の事業において、国(独立行政法人を含む)から別途補助金が支給されている、または支給されることが確定している場合、本補助金の対象外となります。複数の補助金活用を検討している場合は、事業の切り分けを明確にしておく必要があります。

問い合わせ先

申請内容に関する個別相談は、地域ブロックごとの担当地方運輸局観光部等が窓口となっています。申請を検討している場合は、早めに担当窓口に相談することをお勧めします。

地域ブロック担当窓口
北海道北海道運輸局 観光部観光企画課
東北(青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島)東北運輸局 観光部観光企画課
関東(茨城・栃木・群馬・千葉・埼玉・東京・神奈川・山梨)関東運輸局観光部
北陸信越(新潟・長野・富山・石川)北陸信越運輸局 観光部観光地域振興課
中部(愛知・静岡・岐阜・三重・福井)中部運輸局 観光部観光地域振興課
近畿(大阪・京都・奈良・滋賀・和歌山・兵庫)近畿運輸局 観光部観光地域振興課
中国(広島・鳥取・島根・岡山・山口)中国運輸局 観光部観光地域振興課
四国(徳島・香川・愛媛・高知)四国運輸局 観光部観光企画課
九州(福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島)九州運輸局 観光部国際観光課
沖縄沖縄総合事務局 運輸部観光課

また、令和8年3月5日(木)15:30〜16:30にオンライン説明会が開催されています(要事前申込)。申請を検討している方は観光庁ホームページで詳細を確認してください。

まとめ

「オーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめとする観光地の面的受入環境整備促進事業」は、観光課題の解決に向けたシステム整備・設備導入・調査分析など、幅広い取り組みを対象とする使い勝手の良い補助金です。

地域一体型(補助率2/3、上限2億円)と一般型(補助率1/2、上限5,000万円)の2類型があり、自治体・DMO・民間事業者それぞれが活用できる設計となっています。計画申請締切は令和8年5月29日(金)12:00(事前着手届出制度利用の場合は4月17日)と定められているため、申請を検討している方は早めに準備を始めましょう。

特に重要なのは、「何を解決したいのか」「どのような効果を数値で示せるか」「地域の関係者をどう巻き込むか」という3点です。これらをしっかり整理した上で申請書類を作成することが、採択への大きな近道となります。

※本記事は令和8年4月1日版公募要領に基づいて作成しています。制度内容は変更される場合がありますので、最新情報は観光庁ホームページおよび公募要領の改訂版をご確認ください。

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