助手セバスチャンいちご狩りとかぶどう狩りができる観光農園って、最近すごく人気ですよね。自分の畑を持っていれば、お客さんを呼んで収穫体験させるくらい、特に許可とかいらずに始められるんじゃないですか?



いいところに目をつけましたね。たしかに「畑で農作物を育てて、お客さんに摘み取ってもらう」だけなら、特別な許可は基本的に必要ありません。ただ、観光農園って実はそれだけで終わらないことが多いんですよ。



そうなんですか? 摘み取ってもらうだけじゃダメなんですか?



たとえば、採れたての果物でジャムを作って売ったり、農園にカフェを併設したり、駐車場を整備したり……。そうした「プラスα」の部分に、いろいろな許認可が関わってくるんです。今日はその全体像を一緒に見ていきましょう。
近年、農業と観光を組み合わせた体験型農園(観光農園)が注目を集めています。いちご狩りやぶどう狩りといった収穫体験はもちろん、農園レストランやカフェ、採れたて野菜の直売、ジャムやジュースなどの加工品販売、さらには宿泊(農泊)まで、その形はどんどん多様になっています。コロナ禍を経て「自然の中で過ごす体験」への需要が高まったことも、追い風になっています。
一方で、「農業の延長だから自由にできる」と考えて準備を進めると、思わぬところで許認可の壁にぶつかることがあります。観光農園は、農業(一次産業)に、飲食・加工・販売・宿泊といった事業が組み合わさった複合ビジネスです。だからこそ、何にどんな許可が必要なのかを最初に整理しておくことが大切です。



この記事では、観光農園を始めるうえで押さえておきたい許認可を、事業の種類ごとに見ていきましょう。
観光農園を始める前に知っておきたい許認可の全体像


まず結論から言うと、観光農園で「許可が必要かどうか」は、何をやるかによって決まります。農作物を育てて収穫体験させること自体には、原則として特別な許可は要りません。問題になるのは、そこに付け加える事業の部分です。
ここで大切な考え方があります。それは、「農業そのもの」と「農業に付随する事業」を分けて考えるということです。畑で作物を育て、お客さんに摘み取ってもらい、その場で量り売りする——この範囲であれば、農地を農地として使っているだけなので、農地法上の手続きも食品衛生法上の許可も基本的には不要です。
ところが、ここに何かを付け足した瞬間、別の法律が登場します。たとえば、お客さん用の駐車場や休憩所を作るなら農地法(農地転用)、採れた果物を調理してその場で食べさせるなら食品衛生法(飲食店営業許可)、ジャムに加工して販売するなら食品衛生法(製造業許可)、宿泊させるなら旅館業法、といった具合です。
つまり観光農園の許認可は、「観光農園という一つの許可」があるわけではなく、やりたいことを分解して、それぞれに必要な許認可を積み上げていく形になります。自分の農園でどこまでやりたいのかを具体的にイメージし、一つずつ確認していくことが、スムーズな開業への第一歩です。次のセクションから、代表的なものを順番に見ていきましょう。
農地の利用と農地転用(農地法)
観光農園で最初に注意したいのが、農地法に基づく農地転用です。結論から言うと、農地を農業以外の用途に使う場合には、原則として農地転用の許可(または届出)が必要になります。
農地法では、農地を守るために、農地を宅地や駐車場など別の用途に変えることを厳しく規制しています。畑で作物を育てている限りは「農地を農地として使っている」ので問題ありませんが、観光農園では次のような場面で農地転用が問題になります。
- お客さん用の駐車場を舗装・整備する
- 休憩所、トイレ、直売所、カフェなどの建物を建てる
- 体験のための広場や通路を恒久的に造成する
これらは農地を「農業以外の目的」に使う行為にあたるため、自分の農地であっても勝手にはできません。自分が所有する農地を転用する場合は農地法第4条、農地を借りたり買ったりして転用する場合は第5条の許可が必要になります。
農地を農地以外のものにする者は、(中略)都道府県知事等の許可を受けなければならない。
農地法第4条第1項より(抜粋)
申請先は原則として都道府県知事等で、実際の窓口は市町村の農業委員会を経由します。ただし、市街化区域内の農地であれば許可ではなく届出で足りる場合があるなど、土地の区域によって手続きが変わります。また、優良な農地(農用地区域内など)は原則として転用が認められないこともあるため、施設を作る計画があるなら、土地の状況を早めに確認することが重要です。
「とりあえず駐車場だけ」と軽く考えて無断で転用すると、農地法違反として原状回復を命じられる可能性もあります。建物や駐車場を伴う観光農園を構想しているなら、まず農業委員会に相談するところから始めましょう。
収穫物をその場で飲食させる場合(食品衛生法)
採れたての野菜や果物を、農園でお客さんに食べてもらいたい——観光農園ならではの魅力ですが、ここで関わってくるのが食品衛生法です。結論を先に言うと、「どこまで手を加えるか」によって必要な手続きが変わります。
まず、いちご狩りやぶどう狩りのように、お客さんが自分で摘み取って、そのまま食べる形であれば、調理行為がないため飲食店営業許可は基本的に必要ありません。これは観光農園の中心的なスタイルですね。摘み取った果物を持ち帰り用に量り売りするだけの場合も、原則として営業許可までは求められないことが多いです。
問題になるのは、農園側が調理・加工をして提供する場合です。たとえば次のようなケースです。
- 採れた果物でパフェやスムージーを作って提供する
- 農園内にカフェやレストランを併設する
- 収穫した野菜でBBQやピザ作り体験を提供する
こうした行為は「飲食店営業」にあたるため、保健所への飲食店営業許可の申請が必要になります。許可を得るには、調理場の設備(シンクの数、手洗い設備、床や壁の構造など)が施設基準を満たしている必要があり、あわせて食品衛生責任者の設置も求められます。野外でのBBQ提供なども、提供形態によっては許可や別途の確認が必要になるため、自己判断せず保健所に相談しましょう。
また、2021年6月から食品を扱う事業者にはHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が義務化されています。飲食提供を行うなら、この衛生管理の考え方に基づいた運用も求められる点を押さえておきましょう。「採れたてだから安全」と思いがちですが、提供する以上は衛生管理の責任が生じます。判断に迷ったら、計画段階で管轄の保健所に確認するのが確実です。
根拠法令:食品衛生法
加工品の製造・販売(食品衛生法・HACCP)
観光農園では、採れた農産物を使った加工品の製造・販売も人気の取り組みです。ジャム、ジュース、ドライフルーツ、漬物、焼き菓子など、農園の付加価値を高めてくれますが、ここでも食品衛生法の許可が関わってきます。
農産物をそのまま売る(未加工の野菜・果物の販売)だけなら営業許可は不要ですが、加工して販売する場合は、加工品の種類に応じた製造業の許可が必要になります。具体的には次のような区分です。
- ジャム・ジュース・ソースなどを作る → そうざい製造業や清涼飲料水製造業など、品目に応じた許可
- クッキーやケーキなどの焼き菓子 → 菓子製造業の許可
- 漬物を製造・販売する → 漬物製造業の許可(近年の法改正で許可業種化)
これらの製造を行うには、家庭用のキッチンとは別に、営業許可の施設基準を満たした製造設備を用意する必要があります。自宅の台所でジャムを作って売る、というわけにはいかない点に注意が必要です。どの許可に該当するかは作るものによって細かく分かれるため、保健所で品目を伝えて確認するのが確実です。
さらに、製造した加工品を容器に入れて販売する場合は、食品表示法に基づく表示も必要になります。原材料名、内容量、消費期限または賞味期限、保存方法、製造者名などをラベルに正しく記載しなければなりません。アレルギー表示や添加物の表示など、ルールは細かく定められています。
加工品は農園の収益の柱にもなり得る魅力的な分野ですが、製造業の許可・施設基準・食品表示と、押さえるべき点が複数あります。前のセクションで触れたHACCPに沿った衛生管理も当然求められます。本格的に取り組むなら、設備投資の前に許可要件を確認しておくことで、無駄な投資や手戻りを防げます。
宿泊・その他の関連許認可
観光農園をさらに発展させていくと、宿泊やイベントなど、ほかの許認可が関わる場面も出てきます。このセクションでは、代表的なものをまとめて見ておきましょう。
まず、農園に泊まってもらう農泊(農家民宿)を始める場合は、旅館業法の許可が必要になります。料金をもらって人を宿泊させる以上、原則として旅館業(簡易宿所営業など)の許可が必要です。農家民宿には施設基準の一部が緩和される特例もありますが、いずれにせよ保健所での手続きが前提になります。年間提供日数などの条件を満たせば、住宅宿泊事業法(民泊新法)の届出という選択肢もあります。
施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業をしようとする者は、(中略)許可を受けなければならない。
旅館業法第3条第1項より(抜粋)
次に、収穫物や加工品とあわせてお酒を提供・販売したい場合です。その場で飲んでもらうなら前述の飲食店営業許可の範囲ですが、ボトルや瓶で持ち帰り販売するには、税務署が管轄する酒類販売業免許が別途必要になります。果実酒(ワインなど)を自家製造するとなると、酒税法上の製造免許という非常にハードルの高い話になるため、ここは慎重な検討が必要です。
そのほか、動物とのふれあいコーナーを設けて継続的に展示・ふれあいを行うなら動物取扱業の登録、お客さんを案内する移動にバス等を使って運送料を取るなら道路運送法の確認、と、やりたいことが広がるほど確認すべき許認可も増えていきます。
ポイントは、「観光農園に何を組み合わせるか」を決めたら、その一つひとつについて根拠となる法律と窓口を確認することです。複数の許認可が絡む場合は、行政書士などの専門家に全体像を整理してもらうと、抜け漏れを防ぎやすくなります。
まとめ:観光農園は「やりたいこと」ごとに許認可を積み上げる


体験型農園(観光農園)は、農業に飲食・加工・販売・宿泊などを組み合わせた複合的なビジネスです。そのため、「観光農園の許可」という一つの手続きがあるわけではなく、やりたいことを分解し、それぞれに必要な許認可を積み上げていくのが基本になります。
おさらいすると、農作物を育てて収穫体験させるだけなら原則許可は不要ですが、駐車場や建物を作るなら農地転用(農地法)、調理して食べさせるなら飲食店営業許可、加工品を作って売るなら製造業許可と食品表示、宿泊させるなら旅館業法、お酒を持ち帰り販売するなら酒類販売業免許——というように、付帯する事業ごとに確認すべき法律が変わってきます。
※なお、農地転用や食品衛生法・旅館業法に基づく許可は、該当する事業を行う以上は取得が義務です。努力義務ではありません。無許可・無届のまま事業を行うと、行政指導や原状回復命令、罰則の対象となることがあります。
観光農園は、地域の魅力を発信し、農業の新しい可能性を広げてくれる素晴らしい取り組みです。必要な許認可を一つずつ丁寧に押さえて、安心して長く愛される農園を作っていきましょう。



なるほど…! 「観光農園の許可」っていう一枚のチケットがあるわけじゃなくて、やりたいことごとに許可を集めていくイメージなんですね。摘み取りだけなら自由でも、カフェやジャム作りを足すと一気に増えるとは…。



その通りです。最初に「どこまでやるか」を決めておくと、必要な手続きが見えやすくなりますよ。欲張って全部いっぺんに始めるより、段階的に広げていくのも一つの手です。



よし、僕はまず畑で巨大なカボチャを育てて、その中に泊まれる「カボチャ農泊」から始めます!



……それ、旅館業法の前にまずカボチャを建築物として建てられるか、という別次元の問題が出てきそうですけどね。

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