観光バス事業は儲かる?収益構造と収支シミュレーションを解説

助手セバスチャン

貸切バスって許可を取るのがあれだけ大変なんですから、その分ライバルも少なくて儲かるんじゃないですか?

行政書士けいしー

残念ながら、参入障壁の高さと収益性は比例しないんです。貸切バス事業は営業利益率が数%程度と低く、赤字の事業者も少なくありません。

助手セバスチャン

えっ、あれだけ苦労して許可を取っても儲からないんですか……。

行政書士けいしー

儲からないというより、稼働率がすべてを決める事業なんです。同じ5両を持っていても、月に何日走らせられるかで黒字にも赤字にもなります。そこを数字で見ていきましょう。

観光バス事業(一般貸切旅客自動車運送事業)は、許可の要件が厳しく、参入までに半年から1年を要する事業です。それだけの労力をかけて参入する以上、収益性は事前に把握しておきたいところでしょう。

結論から言うと、貸切バス事業の収益構造は典型的な装置産業型です。バスという高額な設備と、運転者という人員を先に抱えたうえで、それをどれだけ稼働させられるかで損益が決まります。固定費が重いため、稼働が一定水準を下回った瞬間に赤字へ転落する構造になっています。

行政書士けいしー

この記事では、貸切バスの運賃の仕組みとコスト構造を整理したうえで、大型バス5両体制を前提とした収支シミュレーションを行います。損益分岐点を「1両あたり月何日走らせればよいか」という現場で確認できる数字まで落とし込んでいきましょう。

目次

貸切バス事業の収益性の実態

貸切バス事業の営業利益率はおおむね数%程度にとどまり、赤字の事業者も相当数存在します。旅行需要が旺盛な年でも業界全体の収支は薄く、景気や災害、感染症の影響を受けると一気に赤字化するという振れ幅の大きさが特徴です。

利益が出にくい理由は、コストの構造にあります。

  • 大型バスは1両あたり数千万円(中古でも数百万円)という高額な設備投資が必要
  • 運転者は運行がない日でも基本給が発生する
  • 運行管理者2名・整備管理者の選任が義務づけられており、管理部門の人件費が固定的にかかる
  • 車庫や営業所の維持費、保険料、自動車税なども車両数に応じて発生する

つまり、バスが車庫に停まっている日にもコストは発生し続けるということです。飲食店であれば客が来なければ食材費は発生しませんが、バス事業では稼働してもしなくても大半のコストが変わりません。この構造こそが、貸切バス事業の収益性を理解する出発点になります。

裏を返せば、稼働日数が増えるほど利益は急速に改善します。1日走らせるごとに追加でかかるコストは、燃料代や乗務手当などに限られるためです。損益分岐点を超えた後は、増えた売上の大部分が利益として残ります。だからこそ、貸切バス事業では「何日走らせられるか」が経営のすべてになるのです。

収益はどこから生まれるか — 貸切バスの運賃制度

貸切バスの運賃は、事業者が自由に決められるわけではありません。2014年から導入されている新しい運賃制度のもとで、時間制運賃とキロ制運賃を合算する方式が採られています。

  • 時間制運賃:出庫前の点呼から帰庫後の点呼までの拘束時間に応じて計算する
  • キロ制運賃:実際の走行距離に応じて計算する

この2つを足したものが基本の運賃です。単価は地方運輸局ごとに上限額と下限額が公示されており、事業者はその範囲内で自社の運賃を定めて届け出ます。

一般貸切旅客自動車運送事業者は、旅客の運賃及び料金を定め、あらかじめ、国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも同様とする。

道路運送法第9条の2第1項より

ここで実務上きわめて重要なのが、公示された下限額を下回る運賃で契約してはならないという点です。かつて価格競争の激化が安全投資の不足を招き、重大事故につながったという反省から設けられた仕組みで、下限割れ運賃での運送は行政処分の対象になります。

この制度は事業者にとって保護的な側面を持ちますが、現場では取引先から値引きを求められる場面が今も生じます。下限を割る要求には応じられないという前提で交渉できるよう、自社の届出運賃を明確にしておくことが大切です。

運賃のほかに、次のような料金を別途収受できます。

項目内容
交替運転者配置料金長距離・長時間運行で交替運転者を配置する場合
深夜早朝運行料金深夜・早朝の時間帯に運行する場合
特殊車両割増サロンバスなど特殊な仕様の車両を使用する場合

これらの料金は、収受し忘れると利益がそのまま目減りします。特に交替運転者配置料金は、改善基準告示の遵守のために配置が必要なケースが増えており、きちんと請求できているかが利益率を左右します。

なお、高速道路料金・駐車場代・ガイド料・宿泊費などは、通常は運賃とは別に実費として請求します。したがって、これらは事業者の収益にも費用にも実質的な影響を与えません。収支を見るときは、実費部分を除いた運賃・料金ベースで考えるようにしてください。

コスト構造|固定費と変動費に分ける

収支を正確に把握するには、コストを固定費(稼働に関係なく発生する費用)と変動費(1回運行するごとに発生する費用)に分けて捉える必要があります。大型バス5両を保有する事業者を想定して整理してみましょう。

固定費(月額)

費目月額の目安補足
運転者の基本給・社会保険料(7名分)250万円稼働がなくても発生する部分
運行管理者2名・整備管理者・事務員の人件費114万円選任が義務づけられている
車両のリース料・減価償却費(5両分)100万円中古車活用を前提
保険料・自動車税・重量税40万円対人無制限の任意保険を含む
営業所・車庫の賃料30万円立地により大きく変動
通信・システム・広告・その他30万円運行管理システム等
固定費合計564万円

注目していただきたいのが、運転者の人件費が固定費に含まれている点です。運転者は運行のない日にも雇用を維持しなければならず、基本給は発生し続けます。ここが「稼働がなくてもコストがかかる」構造の中心にあります。

変動費(1運行日あたり)

費目1運行日あたりの目安
燃料油脂費約1万3,000円
修繕費・タイヤ費の引当約8,000円
乗務手当・宿泊費・食事代等約1万4,000円
変動費合計約3万5,000円

1運行日あたりの運賃収入を12万円と仮定すると、変動費3万5,000円を差し引いた8万5,000円が限界利益となります。この限界利益を積み上げて固定費564万円をまかなえるかどうかが、黒字か赤字かの分かれ目です。

なお、これらの数字は業界の一般的な水準から組み立てたモデルケースです。車両を新車で揃えるか中古で揃えるか、営業所を都市部に置くか郊外に置くかによって固定費は大きく変わりますので、自社の条件に置き換えて試算してください。

収支シミュレーション|損益分岐点は「1両あたり月13日」

前節の数字を使って、損益分岐点を計算してみましょう。

損益分岐点となる運行日数 = 固定費 ÷ 1運行日あたりの限界利益

564万円 ÷ 8万5,000円 = 約66運行日/月

5両で66運行日ということは、1両あたり月13日程度の稼働が黒字ラインということになります。月に13日ということは、およそ2日に1日は走らせなければならない計算です。貸切バスの需要が週末や繁忙期に偏りやすいことを考えると、これは決して簡単な水準ではありません。

では、稼働日数の違いで損益がどう変わるかを見てみましょう。

ケース①:1両あたり月10日稼働(週末中心の稼働)

土日と繁忙期を中心に受注しているものの、平日の稼働が埋まっていない状態です。

項目金額(月)
運行日数(5両合計)50運行日
運賃収入(12万円 × 50日)6,000,000円
変動費(3万5,000円 × 50日)▲ 1,750,000円
限界利益4,250,000円
固定費▲ 5,640,000円
営業利益▲ 1,390,000円

月139万円の赤字です。売上は月600万円あるにもかかわらず、固定費を吸収しきれていません。売上規模だけを見ていると、この赤字は見えてこないという点が重要です。

ケース②:1両あたり月15日稼働(平日需要も確保できている)

平日の企業送迎や自治体からの受託が入り、稼働が平準化されている状態です。

項目金額(月)
運行日数(5両合計)75運行日
運賃収入(12万円 × 75日)9,000,000円
変動費(3万5,000円 × 75日)▲ 2,625,000円
限界利益6,375,000円
固定費▲ 5,640,000円
営業利益735,000円
営業利益率約8%

稼働日数を1両あたり5日増やしただけで、月139万円の赤字が月73万円の黒字に転じました。稼働日数の差50%が、損益では200万円以上の差を生むということです。これが装置産業型の収益構造の怖さであり、同時に面白さでもあります。

ただし、このシミュレーションは月次の平均値である点に注意してください。実際の貸切バスは、修学旅行シーズンの春と秋に需要が集中し、真夏や真冬は落ち込みます。繁忙期の黒字で閑散期の赤字を埋めるのが実態ですので、年間を通した平均で損益分岐点を超えられるかを確認する必要があります。

稼働率をどう上げるか

損益分岐点が「1両あたり月13日」だと分かれば、経営課題は明確になります。いかに平日と閑散期を埋めるか、この一点です。

平日需要を開拓する

観光需要だけを追いかけると、どうしても週末と繁忙期に偏ります。平日の稼働を埋める代表的な受注先は次のとおりです。

  • 企業の従業員送迎(工場・事業所の通勤バス)
  • 自治体からの受託(コミュニティバス、公共施設の送迎)
  • 学校関係(スクールバス、部活動の遠征、校外学習)
  • 医療・介護施設の送迎
  • ゴルフ場・レジャー施設の定期送迎

これらの多くは年間契約や長期契約になりやすく、稼働の下支えとして極めて価値があります。1台分でも定期契約を確保できれば、その車両の損益分岐点は事実上クリアできます。観光の受注を取りに行くのと並行して、地域の企業や自治体への営業を進めましょう。

直接受注の比率を上げる

旅行会社からの受託は安定した受注経路ですが、価格交渉力は弱くなりがちです。学校・企業・団体から直接受注できれば、届出運賃に沿った価格で契約しやすくなります。地域の商工会議所や自治体との関係づくり、自社サイトからの問い合わせ導線の整備など、直接受注のルートを持っておくことが利益率の改善につながります。

季節変動に備える

春と秋に集中する需要をならすため、閑散期向けの商品づくりも有効です。閑散期に限った割引は下限運賃の制約がありますので、運賃を下げるのではなく、稼働の機会そのものを増やす発想が必要になります。地域のイベント輸送や、閑散期に実施される研修旅行の受注などが選択肢になります。

あわせて読みたい:観光バス事業(一般貸切旅客自動車運送事業)の許可要件は?5つの条件を解説

収益を圧迫するリスク

運転者の不足と高齢化

貸切バス業界で最も深刻な課題が、運転者の確保です。大型二種免許の保有者は減少傾向にあり、年齢層も高くなっています。運転者が採用できなければ、受注があっても運行できません。バスを増やすより先に人を確保できるかが、事業拡大の制約条件になります。採用のためには待遇の改善が必要ですが、それは固定費の増加を意味します。ここに構造的な難しさがあります。

労働時間規制への対応

自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)は2024年4月から改正後の基準が適用され、拘束時間の上限や休息期間の下限が以前より厳しくなりました。その結果、1人の運転者が担える運行が減り、同じ運行量をこなすのに必要な人員が増えるという影響が生じています。

これは収支に直接響く変化です。長距離・長時間の運行では交替運転者の配置が必要になる場面が増えますので、その分の交替運転者配置料金を確実に収受することが重要になります。基準の詳細は厚生労働省の資料で最新の内容を確認してください。

下限割れ運賃の要求

前述のとおり、公示された下限額を下回る運賃での契約は認められません。それでも価格を理由に受注を打診されるケースはありますが、応じれば行政処分のリスクを負い、利益も確保できません。断る判断ができるだけの受注経路を持っておくことが、結果的に経営を守ります。

更新制と安全投資の負担

貸切バスの許可は5年ごとの更新制です。更新の際には安全投資計画と事業収支見積書を改めて提出し、安全への投資を継続できる採算性があるかを確認されます。ドライブレコーダーやデジタル式運行記録計の更新なども含め、安全に関わる支出は継続的に発生する前提で収支を組み立てておきましょう。

あわせて読みたい:貸切バス事業の許可申請の流れと必要書類|法令試験の対策も解説

まとめ:勝負は「1両あたり何日走らせるか」

観光バス事業の収益構造をまとめます。

  • 営業利益率は数%程度と低く、固定費の重い装置産業型の構造
  • 運賃は時間制+キロ制で計算し、運輸局が公示する上限・下限の範囲内で届け出る。下限割れは行政処分の対象
  • 交替運転者配置料金・深夜早朝運行料金の収受漏れが利益を削る
  • コストは固定費(人件費・車両・施設)と変動費(燃料・修繕・乗務手当)に分けて把握する
  • モデルケースでは、固定費564万円・限界利益8万5,000円/運行日から、損益分岐点は月66運行日=1両あたり約13日
  • 1両あたり10日稼働なら月139万円の赤字、15日稼働なら月73万円の黒字。稼働日数の差がそのまま損益の差になる
  • 経営課題は平日と閑散期をどう埋めるか。定期送迎契約や自治体受託が下支えになる

貸切バス事業は、売上の大きさではなく稼働率で評価すべき事業です。月商600万円でも赤字、月商900万円で黒字という数字が示すとおり、売上規模だけを見ていると経営判断を誤ります。開業前の事業計画では、必ず「1両あたり月何日走らせる前提か」を明示し、その稼働をどこから確保するのかまで書き込んでおきましょう。

※なお、公示された下限額を下回る運賃で運送を引き受けることはできません。安さで受注を取る戦略は、制度上も採れないものと理解してください。

助手セバスチャン

売上600万円で赤字、900万円で黒字……。売上だけ見ていたら絶対に判断を誤りますね。

行政書士けいしー

そこに気づけたなら十分です。バス事業では「今月いくら売れたか」より「今月何日走らせたか」を見るほうが実態をつかめます。1両あたりの稼働日数を毎月記録する習慣をつけましょう。

助手セバスチャン

分かりました!じゃあ稼働率を上げるために、バスを1日2回転させます。朝に日帰りツアー、夜にもう1本!

行政書士けいしー

…運転者の拘束時間の上限は、そのために定められているんですが。

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