貸切バス事業の許可申請の流れと必要書類|法令試験の対策も解説

助手セバスチャン

貸切バス事業を始めたいので、さっそく物件を借りて、バスを発注してこようと思います!

行政書士けいしー

待ってください。その順番で動くと、確保した物件が使えないと分かって契約金が無駄になることがありますよ。

助手セバスチャン

えっ……。じゃあ、何から手をつければいいんですか?

行政書士けいしー

貸切バスの許可は、準備の順序を間違えると時間もお金も余計にかかります。今日は申請から運輸開始までの流れと、意外な難関である法令試験の対策まで、順を追って整理していきましょう。

貸切バス事業(一般貸切旅客自動車運送事業)の許可は、運送事業の許可のなかでも要件が多く、準備に時間がかかることで知られています。物件・人材・資金・書類のいずれか一つでも欠けると申請は前に進みません。

そして、多くの方が想定以上に苦戦するのが法令試験です。申請者本人が受験して合格しなければ、どれだけ書類が整っていても許可はおりません。しかも、受験できるのは原則として2回までです。

行政書士けいしー

この記事では、貸切バス事業の許可申請の流れを全体像から整理し、必要書類の一覧、法令試験の内容と対策、そして許可後に運輸を開始するまでの手続きまでを解説します。

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目次

許可申請から運輸開始までの全体像

まず、全体の流れを把握しておきましょう。申請書を出してから許可がおりるまでの標準処理期間は運輸局によって異なりますが、おおむね3〜4か月とされています。ただし、これは書類を提出してからの期間です。

ステップ内容期間の目安
1事前準備(物件・人材・資金の確保)2〜6か月
2申請書類の作成・提出1か月程度
3法令試験の受験申請受付後の実施日
4審査(施設確認・資金確認・補正対応)3〜4か月
5許可・登録免許税の納付許可後すみやかに
6選任届の提出、車両の登録(緑ナンバー)1か月程度
7運輸開始前の確認報告運輸開始前
8運輸開始・運輸開始届の提出許可の日から1年以内

こうして並べてみると、準備開始から実際にバスを走らせるまでに半年から1年程度を見込んでおく必要があることが分かります。「来春のシーズンに間に合わせたい」といった目標があるなら、逆算して1年前には動き始めるくらいの感覚が現実的です。

なぜここまで審査に時間がかかるのか。それは、道路運送法が許可の基準として次のように定めているためです。

一 当該事業の計画が過労運転の防止その他の輸送の安全を確保するため適切なものであること。

二 前号に掲げるもののほか、当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること。

三 当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること。

道路運送法第6条より

「輸送の安全を確保するため適切な計画か」「自ら適確に遂行する能力があるか」を確認するために、施設・人員・資金・計画のすべてが書類で裏付けられているかを、運輸局が一つずつ確認していく。これが審査の実態です。書類が多いのは、この確認に必要だからだと理解しておくと、準備のモチベーションも保ちやすいと思います。

申請前に固めておくべき3つのこと

準備段階でやるべきことは、物件・人材・資金の3つです。それぞれ着手のタイミングと注意点が異なります。

① 人材の確保は最も早く着手する

3つのなかで最も時間がかかるのが人材、とりわけ運行管理者2名の確保です。貸切バスでは営業所ごとに常勤の運行管理者を2名以上選任する必要がありますが、有資格者はどの事業者も欲しがるため、簡単には見つかりません。

運行管理者の資格を新たに取得する場合、運行管理者試験は年2回の実施です。試験のタイミングを逃すと半年待つことになりますので、社内で取得させる方針なら、準備の初日に受験計画を立てるくらいの前倒しが必要です。基礎講習の受講と実務経験による資格取得ルートもありますので、どちらで確保するかを早期に決めましょう。

なお、許可がおりる前から人を雇用すると人件費だけが先行して発生します。実務上は「選任予定者」として確保し、雇用開始のタイミングを調整する形が一般的です。

② 物件は契約前に必ず確認する

営業所・車庫・休憩仮眠施設は、契約する前に要件を満たすかどうかを確認してください。ここを飛ばして契約してしまい、後から使えないと判明する事例が本当に多い部分です。

契約前に確認すべき点は次のとおりです。

  • 市街化調整区域でないか(都市計画法上の区域区分)
  • 建築基準法・農地法・消防法などに抵触しないか
  • 車庫に全車両を収容し、車両相互間に50cm以上の間隔を取れるか
  • 車庫の前面道路について幅員証明書が取得できるか
  • 賃貸の場合、3年以上の契約が結べるか

図面や住所が分かった段階で、管轄の運輸支局や運送業を扱う行政書士に相談し、感触を得てから契約に進むのが安全です。

③ 資金は「動かせなくなる」ことを前提に計画する

自己資金は、申請日から許可がおりるまでの間、継続して確保していなければなりません。審査の途中で残高証明書の提出を複数回求められ、一時的にでも基準を下回ると許可がおりません。

つまり、申請してから許可までの数か月間、その資金は事実上動かせないということです。この期間に車両の購入代金を支払う予定を入れてしまうと、資金要件を満たせなくなります。支払いのスケジュールと申請のタイミングを、あらかじめ調整しておきましょう。

必要書類の一覧

提出書類は多岐にわたります。グループごとに整理すると全体像がつかみやすくなります。

区分主な書類備考
事業計画関係一般貸切旅客自動車運送事業許可申請書所定様式
事業計画(営業区域・営業所・車庫・車両数など)所定様式
安全投資計画2017年改正で追加
事業収支見積書連続赤字でないことが必要
施設関係営業所・車庫・休憩仮眠施設の使用権原を証する書面登記事項証明書または賃貸借契約書
各施設の案内図・見取図・平面図・写真寸法の記載が必要
車庫の前面道路の幅員証明書取得に時間がかかる
関係法令に抵触しない旨の宣誓書都市計画法・農地法等
車両関係事業用自動車の使用権原を証する書面売買契約書・リース契約書・見積書等
車検証の写し取得済みの場合
人材関係運行管理者・整備管理者の資格を証する書面選任予定者分
運転者の確保計画、就業規則(案)常時10人未満なら就業規則は任意
社会保険等加入計画健康保険・厚生年金・労災・雇用保険
資金関係所要資金および調達方法を記載した書面費目ごとの内訳が必要
残高証明書複数の時点で求められる
申請者関係定款・登記事項証明書・役員の履歴書(法人の場合)個人は資産目録・戸籍抄本・履歴書
欠格事由に該当しない旨の宣誓書役員全員分
損害賠償能力を証する書面任意保険の見積書等

このなかで特に段取りを要するのが、車庫の前面道路の幅員証明書残高証明書です。幅員証明書は道路管理者(市町村や都道府県の土木事務所)に申請して交付を受けるもので、発行までに数週間かかることがあります。残高証明書は申請時だけでなく審査の途中でも求められるため、その都度の取得と資金の維持が必要です。

書類の様式や添付書類の細部は運輸局ごとの公示によって異なります。申請予定地を管轄する運輸局のホームページから最新の様式一式をダウンロードして、そちらを基準に準備を進めてください。

法令試験の概要

貸切バスの許可申請では、申請者が法令試験に合格しなければなりません。書類がすべて整っていても、この試験に通らなければ許可はおりない仕組みです。

誰が受験するのか

個人事業の場合は事業主本人、法人の場合は代表権を有する常勤の役員が受験します。代理人や従業員が代わりに受けることはできません。行政書士に申請を依頼していても、試験だけは本人が受ける必要があります。ここは押さえておいてください。

実施時期と受験回数

試験は運輸局ごとに実施され、頻度はおおむね毎月から隔月です。申請書を受け付けた後、直近の実施日に受験する流れになります。

受験できるのは原則として2回までです。1回目が不合格の場合は次回に再受験できますが、2回目も不合格となった場合は申請が却下される(または取り下げることになる)取扱いです。つまり、試験に落ち続ければ、それまでに準備した物件も人材も資金も、いったん振り出しに戻ってしまいます。

出題数・形式・合格基準は運輸局によって異なる

ここが最も注意すべき点です。法令試験の出題数と形式は、運輸局ごとにかなり違います

運輸局出題形式の例
北海道正誤式15問+三択式15問
関東正誤式・選択式・○×式・記述式の組み合わせ
中部正誤式・選択式・記述式・三択式の組み合わせ
近畿三択式27問+正誤式3問
中国正誤式40問
九州正誤式30問+三択式10問

このように、記述式が出題される運輸局もあれば、正誤式のみの運輸局もあります。合格基準も一律ではなく、おおむね正答率8割以上とされていますが、9割を求める運輸局もあります

したがって、対策の第一歩は「自分が受ける運輸局の公示を確認すること」です。インターネット上には他の運輸局を前提にした情報も多く出回っていますので、出題数や合格基準を鵜呑みにせず、必ず管轄運輸局の情報にあたってください。多くの運輸局が、実施要領や過去の出題内容をホームページで公表しています。

法令試験の対策

出題範囲となる法令

出題範囲も運輸局の公示で示されますが、代表的なものは次のとおりです。

  • 道路運送法、同施行令、同施行規則
  • 旅客自動車運送事業運輸規則(最重要)
  • 自動車事故報告規則
  • 道路運送車両法
  • 道路交通法
  • 労働基準法
  • 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)
  • 労働安全衛生法
  • 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
  • 下請代金支払遅延等防止法
  • 消費者契約法
  • 運輸事業者における安全管理の実施に関するガイドライン

このうち出題の中心になるのが旅客自動車運送事業運輸規則です。点呼の実施方法、運転者の選任、運行記録の保存、乗務員に対する指導監督など、日々の運行管理の根拠となる規定がまとまっており、実務にも直結します。優先的に読み込みましょう。

改善基準告示も頻出分野です。拘束時間・休息期間・連続運転時間などの上限が定められており、2024年4月から改正後の基準が適用されています。古い数値のまま覚えていると誤答につながりますので、必ず現行の基準で学習してください。

具体的な勉強の進め方

対策として効果的なのは、次の3点です。

① 管轄運輸局の公示と過去問を入手する

実施要領には出題範囲・出題数・合格基準が明記されています。過去の出題内容を公表している運輸局も多いため、まずはこれらを入手して出題の傾向をつかみます。ここを飛ばして市販教材だけで学習すると、形式のずれで足をすくわれます。

② 数字を正確に覚える

法令試験では、期間や日数、人数といった数字が正誤の分かれ目になる問題が多く出ます。運行記録の保存期間、点呼の記録事項、事故報告の要否、拘束時間の上限など、数字が出てくる規定はまとめて表にして覚えるのが効率的です。

③ 条文の「例外」に注意する

「原則として」「ただし」で始まる例外規定は、正誤式の問題で狙われやすい部分です。原則だけを覚えていると、例外を含む選択肢で判断を誤ります。条文を読むときは、本文と但し書きをセットで押さえる意識を持ちましょう。

試験には法令集などの持ち込みができないのが原則です。暗記が前提となりますので、申請書類の作成と並行して、計画的に学習時間を確保してください。

許可後から運輸開始までの手続き

許可がおりても、すぐにバスを走らせられるわけではありません。運輸を開始するまでに、いくつかの手続きが残っています。

① 登録免許税の納付

許可後、登録免許税9万円を納付し、領収証書を運輸支局に提出します。

② 運行管理者・整備管理者の選任届

選任予定者として申請していた運行管理者・整備管理者を正式に選任し、届出を行います。

③ 車両の登録(緑ナンバーの取得)

事業用自動車等連絡書の交付を受け、運輸支局で事業用ナンバー(緑ナンバー)へ登録します。あわせて任意保険にも加入します。

④ 運輸開始前の確認報告

運輸を開始する前に、社会保険等への加入状況、運転者の選任状況、車両の登録状況などを報告します。ここで要件を満たしていないことが判明すると、運輸を開始できません。

⑤ 運輸開始届の提出

実際に運輸を開始したら、運輸開始届を提出します。

注意していただきたいのが、許可の日から1年以内に運輸を開始する必要があるという点です。許可を取ったまま放置していると、許可が失効したり取り消されたりするおそれがあります。許可はゴールではなく、運輸開始までが一続きの手続きだと考えておきましょう。

なお、貸切バスの許可は5年ごとの更新制です。更新の際にも法令試験が課される取扱いとなっていますので、日々の運行管理の記録を適切に残しつつ、法令知識も維持していく必要があります。

まとめ:つまずきやすいのは「順序」と「法令試験」

貸切バス事業の許可申請について、要点を整理します。

  • 準備開始から運輸開始まで半年〜1年を見込む。申請後の標準処理期間だけでも3〜4か月
  • 準備は人材(特に運行管理者2名)を最優先に着手する。資格取得には時間がかかる
  • 物件は契約前に要件確認を。市街化調整区域や幅員証明の可否は後戻りできない
  • 自己資金は申請日から許可日まで維持が必要。その間は動かせない前提で計画する
  • 書類では幅員証明書と残高証明書が段取りを要する
  • 法令試験は代表権を持つ本人が受験し、原則2回まで。出題数・形式・合格基準は運輸局ごとに異なる
  • 対策は管轄運輸局の公示と過去問の入手から。旅客自動車運送事業運輸規則と改善基準告示が中心
  • 許可後も選任届・車両登録・運輸開始前の確認報告が残り、1年以内の運輸開始が必要

準備でつまずく方の多くは、要件そのものではなく「順序」でつまずいています。物件を先に押さえたが使えなかった、資金を用意したが車両代金の支払いで基準を割った、書類は揃ったが法令試験に落ちた。いずれも、事前に全体の流れを把握していれば避けられるものです。

※なお、許可を受けずに有償で旅客運送を行うことはできません。運輸開始前の確認報告を経ずに運行を始めることもできませんので、手続きの順序は必ず守ってください。

助手セバスチャン

危なかった……。物件を先に契約しなくて本当によかったです。それに、法令試験があるなんて知りませんでした。

行政書士けいしー

意外な難関なんですよ。書類は行政書士が整えられますが、試験は申請者ご本人が受けるものですからね。運輸規則と改善基準告示を中心に、計画的に勉強しておきましょう。

助手セバスチャン

分かりました!じゃあ、僕の代わりに受けてきてください。プロですし、絶対受かりますよね?

行政書士けいしー

代表権を有する常勤の役員が受験する決まりだとお伝えしたばかりですが。

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