助手セバスチャン観光バスの会社をやってみたいんです!バスを1台買って、二種免許を取れば始められますよね?



残念ながら、それでは始められません。観光バス事業は一般貸切旅客自動車運送事業といって、国土交通大臣の許可が必要です。しかも、バスは1台では足りません。



えっ、何台いるんですか……?



大型バスを使うなら、営業区域ごとに5両以上です。そのほかにも営業所・車庫・運行管理者・自己資金と、満たすべき条件がいくつもあります。順番に見ていきましょう。
団体旅行や修学旅行、インバウンド向けのツアーなどで使われる観光バス。旅行需要の回復とともに、観光バス事業への参入を検討する方も増えています。
観光バスを運行して料金を受け取る事業は、一般貸切旅客自動車運送事業にあたり、国土交通大臣(実際には各地方運輸局)の許可が必要です。この許可は、数ある運送事業の許可のなかでも要件が厳しいことで知られています。2016年に発生したスキーバスの重大事故を受けて、2017年に安全対策の強化を目的とした制度改正が行われ、参入基準と事後チェックの両方が厳格化されたためです。



この記事では、観光バス事業の許可を受けるために満たすべき条件を5つに整理して解説します。あわせて、申請の流れや費用、そして許可取得後も続く5年ごとの更新制についても見ていきましょう。
観光バス事業に必要な許可とは


観光バス事業を営むには道路運送法第4条の許可が必要です。
一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない。
道路運送法第4条第1項より
一般旅客自動車運送事業は、事業の形態によって3つに分かれます。路線バスなどの「一般乗合旅客自動車運送事業」、タクシー・ハイヤーの「一般乗用旅客自動車運送事業」、そして観光バスや送迎バスをチャーターで運行する「一般貸切旅客自動車運送事業」です。観光バス事業が該当するのは3つ目になります。
許可が必要になるケース・不要なケース
判断のポイントは、他人の需要に応じて、有償で、旅客を運送するかどうかです。
| ケース | 許可の要否 | 補足 |
|---|---|---|
| 旅行会社から依頼を受けてツアーバスを運行する | 必要 | 典型的な貸切バス事業 |
| 団体客から直接依頼を受けて貸切運行する | 必要 | 同上 |
| 自社の宿泊施設が宿泊客を無料で送迎する | 原則不要 | 自家用(白ナンバー)での運送 |
| 送迎に対して別途料金を受け取る | 必要となる可能性が高い | 実質的に有償運送と判断されうる |
| 自社の従業員を通勤送迎する | 原則不要 | 自社の業務としての運送 |
注意していただきたいのが、「無料」と言いながら実質的に運送の対価を受け取っている場合です。宿泊料や施設利用料に送迎分を上乗せしているようなケースでは、有償運送とみなされるおそれがあります。無許可で有償運送を行うと、いわゆる白バス行為として処罰の対象になりますので、線引きに迷う場合は必ず運輸局または行政書士に相談してください。
なお、許可の対象となる営業区域は原則として都道府県単位で設定されます。営業所を置いた都道府県が営業区域となり、発地または着地のいずれかが営業区域内にあることが必要です。
【条件1】営業所・車庫・休憩仮眠施設
1つ目の条件は施設です。営業所・車庫・休憩仮眠施設の3つを、それぞれ基準を満たす形で確保しなければなりません。
営業所
営業区域内に設置し、事業計画を遂行できる規模であることが求められます。実務上のポイントは次の2つです。
- 土地・建物について3年以上の使用権原があること(自己所有または3年以上の賃貸借契約)
- 建築基準法・都市計画法・農地法・消防法などの関係法令に抵触しないこと
特に見落としやすいのが市街化調整区域の問題です。市街化調整区域内の物件は原則として営業所として使えません。物件を契約する前に、都市計画法上の区域区分を必ず確認してください。契約後に使えないと判明する事例が実際に少なくありません。
車庫
車庫は原則として営業所に併設します。併設できない場合は、営業所から直線距離で2km以内にあることが必要です。さらに、次のような基準を満たす必要があります。
- 使用する車両すべてを収容でき、車両相互間および車両と車庫の境界との間に50cm以上の間隔を確保できること
- 前面道路が車両の出入りに支障のない幅員であること(幅員証明の取得が必要)
- 他の用途と兼用でないこと、他の事業者と共用でないこと
前面道路の幅員については、地域の区分に応じた計算式で判定されます。基準の細部は運輸局ごとの公示によって異なる部分がありますので、申請予定地を管轄する運輸局の基準を確認しましょう。
休憩・仮眠施設
運転者が有効に利用できる休憩施設が必要です。原則として営業所または車庫に併設し、併設できない場合は営業所からも車庫からも直線距離2km以内にあることが求められます。
長距離運行などで運転者に睡眠を与える必要がある場合には、仮眠施設として1人あたり2.5平方メートル以上の広さが必要とされています。観光バスは早朝出発・深夜帰着の運行も多く、実際に仮眠を必要とする場面が生じますので、事業計画に照らして必要な規模を確保しておきましょう。
【条件2】車両
2つ目の条件は車両です。ここが観光バス事業への参入で最初のハードルになります。
| 使用する車両 | 必要な最低車両数 |
|---|---|
| 大型車を使用する場合 | 営業区域ごとに5両以上 |
| 中型車・小型車・コミューター車のみを使用する場合 | 営業区域ごとに3両以上 |
つまり、大型観光バスで参入する場合は最低5両を用意しなければなりません。大型観光バスは中古でも1台あたり数百万円から、新車であれば数千万円という価格帯ですので、車両だけで相応の初期投資が必要になります。
小規模に始めたい場合は、中型車・小型車・コミューター車(乗車定員11人以上の車両)のみを使用する形にすれば3両以上で足ります。少人数のインバウンドツアーや、送迎中心の事業モデルであれば、この形での参入も現実的な選択肢です。
車両については、使用権原があることも要件です。自己所有のほか、リースでも構いませんが、その場合はリース期間が概ね1年以上の契約であることなどが求められます。申請時点で必ずしも車両を購入済みである必要はなく、売買契約書やリース契約書、見積書などで取得の見込みを示す形が一般的です。
なお、車両には運行記録計(タコグラフ)やドライブレコーダーの装着も求められます。安全投資計画にも関わる部分ですので、車両の選定時に装備の有無を確認しておきましょう。
【条件3】運行管理者・整備管理者・運転者
3つ目の条件は人です。観光バス事業では、他の運送事業より人的要件が厳しく設定されています。
運行管理者は営業所ごとに2名以上
一般貸切旅客自動車運送事業では、営業所ごとに常勤の運行管理者を2名以上選任する必要があります。他の運送事業では1名から選任できるケースもありますが、貸切バスについては2017年の制度改正で複数選任が求められるようになりました。安全管理の担い手を1人に依存させない、という趣旨です。
運行管理者になるには、運行管理者試験(旅客)に合格するか、一定の実務経験と講習の受講によって資格を得る必要があります。この2名の確保が、実務上は最も時間のかかる準備になることが少なくありません。人材の目処を早い段階でつけておきましょう。
整備管理者は1名以上
車両の点検・整備を管理する整備管理者を、営業所ごとに原則として常勤で1名以上選任します。整備管理者になるには、自動車整備士の資格を持つか、2年以上の実務経験と整備管理者選任前研修の修了が必要です。
運転者
事業計画を遂行するのに必要な人数の運転者を確保します。目安として、少なくとも車両数以上の人数が必要です。運転者には、運行する車両に対応した第二種運転免許が必須となります。
また、日雇い労働者や2か月以内の期間を定めて使用される者、試みの使用期間中の者(14日を超えて引き続き使用されている者を除く)は、運転者として選任できません。安定した雇用関係のもとで運転者を確保することが求められている、と理解してください。
あわせて読みたい:通訳案内士・観光案内ガイドになるには資格や許可は必要?法改正後の現状を解説
【条件4】資金
4つ目の条件は資金です。ここは数字が明確に決まっているため、事前の試算が欠かせません。
必要な自己資金は、次の両方を満たす金額です。
- 所要資金の50%以上
- 事業開始当初に要する資金の100%以上
そして重要なのが、この自己資金を申請日から許可がおりるまでの間、継続して確保していなければならないという点です。申請時と審査途中の複数時点で残高証明書の提出を求められ、一時的にでも基準を下回ると許可がおりません。「申請の日だけ用意すればよい」という性質のものではないことに注意してください。
所要資金の主な内訳は次のとおりです。
| 費目 | 計上する内容 |
|---|---|
| 車両費 | 取得価格。分割・リースの場合は頭金と1年分の支払額 |
| 土地・建物費 | 営業所・車庫等の取得価格。賃借の場合は敷金と1年分の賃料 |
| 機械器具・什器備品費 | 事務機器、点検用機器など |
| 運転資金 | 人件費・燃料油脂費・修繕費などの2か月分 |
| 保険料等 | 自賠責保険・任意保険の1年分、自動車税、重量税など |
| 登録免許税 | 9万円 |
大型バス5両で参入する場合、車両費だけでも相当な金額になります。人件費も、運行管理者2名・整備管理者・運転者5名以上を抱える前提で2か月分を見積もることになりますので、総額で数千万円規模の資金計画になることが一般的です。金融機関からの借入を予定している場合も、自己資金として認められるのは自己名義の預貯金などに限られる点に注意してください。
【条件5】法令遵守と損害賠償能力
5つ目の条件は、事業者としての適格性です。
欠格事由に該当しないこと
申請者(法人の場合は役員)が、道路運送法に定める欠格事由に該当しないことが必要です。具体的には、一定の刑に処せられてから5年を経過していない場合や、運送事業の許可を取り消されてから5年を経過していない場合などが該当します。過去に運送関連の法令違反がある場合は、申請前に確認しておきましょう。
あわせて、健康保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険といった社会保険等への加入も要件とされています。運転者の労働環境の確保が安全に直結するという考え方に基づくものです。
損害賠償能力を有すること
万一の事故に備えた保険への加入が必要です。基準は次のとおりです。
- 対人賠償:被害者1名につき無制限
- 対物賠償:1事故につき200万円以上
観光バスは一度の事故で多数の乗客が被害を受ける可能性があるため、対人賠償は無制限とされています。任意保険への加入計画を申請書類に添付する形になります。
安全投資計画と事業収支見積書
2017年の制度改正で新たに求められるようになったのが、安全投資計画と事業収支見積書の提出です。
安全投資計画には、運行管理者等の確保、車両の取得、点検・整備の計画、ドライブレコーダーなど安全設備の導入、運転者への安全教育といった項目を記載します。事業収支見積書では、計画期間中に毎年連続して赤字とならないこと、つまり安全への投資を継続できるだけの採算性があるかが確認されます。
「安全にコストをかけられない事業者は参入させない」という制度趣旨が最も明確に表れている部分です。形式的に作成するのではなく、実際に運営可能な計画として組み立てることが求められます。
申請の流れ・費用と5年更新制


申請の流れ
申請は、営業所の所在地を管轄する地方運輸局(実際の窓口は運輸支局)に対して行います。おおまかな流れは次のとおりです。
- 事業計画の立案、営業所・車庫となる物件の確保
- 運行管理者・整備管理者・運転者の確保
- 申請書類の作成と提出
- 法令試験の受験(申請者本人または法人の常勤役員が受験)
- 審査(施設や資金の確認、必要に応じて追加資料の提出)
- 許可、登録免許税の納付
- 車両の登録(緑ナンバーの取得)、運輸開始届の提出
法令試験は、道路運送法や労働基準法などから出題されます。受験できるのは原則として2回までで、2回とも不合格の場合は申請が却下されます。準備を軽視できない部分です。
標準処理期間は運輸局によって異なりますが、おおむね3〜4か月とされています。ただし、これは申請書類を提出してからの期間です。物件の確保、人材の採用、資金の準備を含めれば、準備開始から運輸開始まで半年から1年程度を見込んでおくのが現実的でしょう。
費用としては、許可取得時に登録免許税9万円が必要です。このほか、車両費・施設費・人件費といった実費が別途かかります。
許可は5年ごとの更新制
一般貸切旅客自動車運送事業の許可には、他の運送事業にはない特徴があります。5年ごとの更新制です。
一般貸切旅客自動車運送事業の許可は、五年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によつて、その効力を失う。
道路運送法第8条第1項より
これも2017年の制度改正で導入されたもので、更新の際には過去の運行実績や安全管理体制、法令の遵守状況が確認されます。安全投資計画と事業収支見積書も改めて提出することになります。
つまり、観光バス事業は一度許可を取れば終わりではなく、5年ごとに事業者としての適格性を問われ続ける事業だということです。日常的な運行管理の記録や整備の記録を適切に残しておくことが、更新時の備えにもなります。更新申請は期限の余裕をもって準備を始めましょう。
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まとめ:観光バスは「安全体制をつくれるか」が問われる許可
観光バス事業(一般貸切旅客自動車運送事業)の許可要件を、5つの条件として整理します。
- 条件1|施設:営業所は3年以上の使用権原と法令適合、車庫は原則併設または直線2km以内で車両相互間50cm以上、休憩仮眠施設は仮眠が必要なら1人あたり2.5平方メートル以上
- 条件2|車両:大型車を使うなら営業区域ごとに5両以上、中型・小型・コミューターのみなら3両以上
- 条件3|人:運行管理者は営業所ごとに常勤2名以上、整備管理者1名以上、運転者は第二種免許保有者を車両数以上
- 条件4|資金:所要資金の50%以上かつ事業開始当初資金の100%以上の自己資金を、申請日から許可日まで継続して確保
- 条件5|適格性:欠格事由に該当しないこと、社会保険等への加入、対人無制限・対物200万円以上の保険、安全投資計画と事業収支見積書
これらの条件を並べてみると、この許可が一貫して求めているのは「安全に運行できる体制を継続的に維持できるか」という一点だと分かります。車両数も、運行管理者の複数選任も、収支の黒字要件も、5年ごとの更新制も、すべてその延長線上にあるものです。
※なお、許可を受けずに有償で旅客運送を行うことはできません。努力義務ではなく、法律上の許可制です。



いや、思っていた10倍くらい大変でした……。バス5両に運行管理者2人、自己資金も数千万円って、気軽に始められる事業じゃないですね。



そうですね。ただ、これだけの体制を求めるのは、大勢のお客さまの命を預かる仕事だからです。裏を返せば、要件をきちんと満たした事業者だけが残る世界だとも言えます。



分かりました!じゃあまずは中型車3両から始めます。5両よりは現実的ですし。



いい判断だと思いますよ。少人数のインバウンドツアーなら、中型・小型のほうが小回りも利きますしね。



ちなみに運行管理者の2人って、僕が朝と夜で担当を変えれば1人でいけませんか?



…それができるなら、そもそも2名以上と定められていないと思いませんか。

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