令和7年度補正予算として創設された「観光DX推進事業(観光地の販路拡大・マーケティング強化/観光産業の収益・生産性向上)」は、インバウンド需要の急回復を背景に、全国の観光地・宿泊施設がデジタルツールを導入する際の費用を最大1,500万円(補助率1/2)支援する補助金です。
計画申請の受付は令和8年5月29日(金)17:00が締め切りです。
行政書士けいしー本記事では、対象事業者・補助額・申請の流れ・審査のポイントまで、わかりやすく解説します。
補助金の目的と概要
本事業は観光庁が所管する補助金で、訪日外国人旅行者をはじめとする観光需要の急速な回復を踏まえ、全国に「稼げる地域・稼げる産業」を創出することを目的としています。具体的には、次の2つの事業区分でデジタルツールの導入費用を支援します。
| 区分 | 対象 | 補助上限 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| ①観光地の販路拡大・マーケティング強化 | 地方公共団体・DMO・観光協会等が主体となる地域一体の取組 | 1,500万円 | 1/2 |
| ②観光産業の収益・生産性向上 | 旅館業法の許可を受けた宿泊事業者(1事業者あたり上限3施設) | 1施設あたり1,500万円 | 1/2 |
補助金を受け取るためには、デジタルツールを導入するだけでなく、「データをどう活用するか」という具体的な計画を申請書に落とし込む必要があります。また、採択後は事業完了年度の翌年から最大5年間、効果測定結果を年1回以上、観光庁または事務局へ報告する義務が生じます。
対象事業者と申請要件
区分①|観光地の販路拡大・マーケティング強化
この区分は、地域全体でデータを活用し、観光コンテンツの販路を広げることを目的とした取組が対象です。
計画申請主体(まとめ役)になれる者
- 地方公共団体
- 登録DMO(広域連携DMO・都道府県DMO・地域DMO)および候補DMO
- 観光協会等(地域における観光振興事業を主な活動とする公共性の高い団体)
補助対象事業者(実際に補助を受けて事業を実施する者)になれる者
- 上記の計画申請主体に加え、観光事業者・宿泊事業者等も含まれる
- 計画申請主体と補助対象事業者は同一でも、異なる者でも構わない
区分①では、同一の計画申請主体による複数申請は不可です。また、宿泊事業者が区分①と区分②を同時に申請することもできません。いずれか一方を選択してください。
区分②|観光産業の収益・生産性向上
この区分は、宿泊施設が収益力・生産性を高めるためにデジタルツールを導入する取組が対象です。
- 旅館業法第3条第1項に規定する営業許可を受けた宿泊事業者(旅館・ホテル等)が対象
- 計画申請主体と補助対象事業者は同一である必要がある
- 1事業者(法人・個人)あたり合計3施設まで申請可能
- 同一グループに属する複数法人からの申請でも、グループ合計で3施設が上限
- 宿泊施設の所有者と運営者が異なる場合でも、一定の要件を満たせば申請可能
申請不可の事業者:風俗特殊営業を営む者、住宅宿泊事業法(民泊)のみを営む者(旅館業法の許可なし)は対象外です。
補助対象経費と対象デジタルツール
補助対象となるのは、ソフトウェア・クラウドサービス・ハードウェア等の導入費用です。月額・年額のサブスクリプション型サービスは、最大2年分が補助対象(ただし前払いかつ完了実績報告時までに支払完了が条件)となります。
区分①で補助対象となる主なデジタルツール
| カテゴリ | ツール例 |
|---|---|
| 集客・情報発信 | 観光アプリ、多言語翻訳・情報発信ツール、デジタルマップ |
| 販売・決済 | デジタルチケット、直販サイト構築ツール(予約・決済完結型)、キャッシュレス決済端末、POSシステム、クーポン配布、スタンプラリー |
| データ活用・分析 | CRM、DMP、マーケティングツール、口コミ管理ツール、アクセス解析、データ可視化・レポーティングツール |
| AI活用 | 生成AI(既存サービスとして提供されているものに限る) |
区分②で補助対象となる主なデジタルツール
| カテゴリ | ツール例 |
|---|---|
| 予約・フロント管理 | PMS(顧客予約管理システム)・オプション、宿泊予約システム、自動チェックイン機 |
| 収益最大化 | レベニューマネジメント、CRM、MA(マーケティングオートメーション)ツール |
| 施設・運営効率化 | スマートロック・カードロック、清掃管理システム、在庫管理システム、オーダーシステム |
| 省エネ・IoT | 客室IoT(照明・空調コントロール等)、エネルギー管理システム(EMS) |
| 決済・AI | キャッシュレス決済端末、生成AI(既存サービスとして提供されているものに限る) |
補助対象外となる主な経費
- 汎用性の高い一般物品(事務用PC、タブレット、スマートフォン、プリンタ、Wi-Fi機器、テレビ等)の購入費
- 人件費・旅費・家賃・光熱水費・通信料などの経常経費
- 中古設備の購入費
- 故障・老朽化した設備の単純な更新
- 他の国の補助金と重複する経費
- 交付決定前または完了実績報告後に発生する経費
- 商品券等の金券
申請スケジュールと補助金を受け取るまでの流れ
| スケジュール | 日程 |
|---|---|
| 参加申込・計画申請 受付開始 | 令和8年4月17日(金) |
| 参加申込 締切 | 令和8年5月22日(金)17:00 |
| 計画申請(事業計画提出)締切 | 令和8年5月29日(金)17:00【締切厳守】 |
| 完了実績報告書 締切 | 令和9年1月8日(金)17:00 |
| 補助金請求書 締切 | 令和9年2月19日(金) |
補助金の交付を受けるまでには、以下の10ステップがあります。特に「交付決定が下りるまでは発注・契約・支払いを一切してはいけない」という点が最重要ルールです。
事務局からのメール案内に従い、マイページの計画申請フォームから事業計画書等を提出。締切は5月29日17:00厳守。
観光庁及び事務局が事業計画を審査し、採否を通知。この時点ではまだ事業着手(発注・契約・支払い)は不可。
計画採択通知を受けた後、1か月程度以内に交付申請フォームから申請。
事務局の審査後、「補助金交付決定通知書」が届く。ここで初めて補助事業(発注・契約・支払い)に着手できる。
交付決定を受けた事業計画に基づき、デジタルツールの導入等を実施する。
令和9年1月8日(金)17:00までに完了実績報告フォームから報告書・精算書類を提出。
事務局が完了実績報告を審査し、最終的な補助金額を確定・通知。
令和9年2月19日(金)までに補助金請求書を提出。
請求書に基づき、事務局から銀行振込にて補助金を受領。
計画申請に必要な提出書類
区分①(観光地の販路拡大・マーケティング強化)の必須書類
- 【様式1-1】計画申請書
- 【様式1-2】スケジュール・実施体制
- 【様式1-3】計画申請主体による補助対象事業者の事業進捗管理誓約書
- 【様式1-4】補助対象事業者における事業進捗報告誓約書(計画申請主体と補助対象事業者が異なる場合)
- 見積書・相見積書(複数社から取得)
- ツールの概要・カタログ等(導入予定ツールごとに提出)
- 【様式3】チェックリスト
- 申請団体の存立を証明する書類(観光協会が申請主体の場合)
- 【様式2】業者等選定理由書(見積書が1社のみの場合)
区分②(観光産業の収益・生産性向上)の必須書類
- 【様式1-1】計画申請書
- 【様式1-2】スケジュール
- 【様式1-3】計画申請主体・補助対象事業者による効果検証誓約書(連名)
- 旅館業法上の営業許可証の写し
- 見積書・相見積書
- ツールの概要・カタログ等
- 【様式3】チェックリスト
- 宿泊施設の運営委託関係または賃貸借関係を示す証跡(所有者と運営者が異なる場合)
見積書は「一式」のようなまとめた表記を避け、項目ごとに内訳が明示されたものを用意しましょう。また、1社見積もりの場合は「業者等選定理由書」の提出が必須です。
採択されるための審査ポイント
審査は観光庁および事務局が行い、主に以下の4項目で評価されます。採択・不採択理由についての個別回答はありません。
① 事業目的・内容の理解度
補助金の目的(稼げる地域・産業の創出)を理解した上で、地域の背景・課題が具体的に整理されているか、また課題と目指す姿の関係が明確であるかが問われます。区分①では地域一体の取組であることも必須です。
② 事業計画の確実性
リスクを整理した上で、令和9年1月8日の完了実績報告締切までに確実に事業を完了できる実施体制・スケジュールかどうかが評価されます。補助金採択後の実施期間は非常に短いため、すでにツールの選定・ベンダーとの協議がある程度進んでいる状態で申請するのが理想です。
③ 事業内容の的確性
事業目的を達成するための主要成功要因(CSF)が整理されており、それを実現するために適切なデジタルツールが選ばれているかが問われます。特に、「誰が・どのような場面で・どんなデータを・どのように活用するか」というデータ活用の具体的な手法と、アウトプット・アウトカムの設定が評価の核心となります。
④ 経費の妥当性
補助対象事業と経費の対応関係が明確で、過剰な設備投資や不必要な経費が含まれていないかを確認されます。相見積もりを取得し、金額の根拠を明示することが重要です。
申請・事業実施における重要な注意事項
交付決定前の着手は絶対NG
計画採択後も、交付決定通知が届くまでは発注・契約・支払いを一切行えません。交付決定前に支出した費用は補助対象外となります。これが最も見落とされがちなルールです。
関係会社からの調達は利益排除が必要
自社調達や関係会社(親会社・子会社・関連会社・代表者の親族が所有する会社等)からの調達が含まれる場合、取引価格から利益相当額を控除した金額のみが補助対象経費となります。
収益が生じた場合は返納の可能性あり
補助事業の結果として収益(収入-経費)が生じた場合、補助金交付額を上限として、その一部または全額を国庫へ返納(収益納付)することがあります。
財産の処分制限に注意
単価50万円(税抜き)以上の機械装置等は「処分制限財産」となり、一定期間は目的外使用・譲渡・廃棄等が制限されます。処分制限期間内に処分が必要な場合は、事前に事務局の承認が必要です。
関係書類は5年間保存義務あり
補助事業に関する帳簿・証拠書類は、事業完了年度の終了後5年間(令和14年3月31日まで)保存しなければなりません。会計検査院による検査が実施される可能性もあります。
5年間の効果測定報告義務あり
採択事業者は、事業実施年度および事業完了年度の翌年から最大5年間、年1回以上、導入ツールの活用状況や成果を観光庁または事務局へ報告する義務があります。採択後も長期的な運用・記録管理の体制を整えておく必要があります。
まとめ:申請前に確認すべきチェックリスト
- 自社が区分①・区分②のどちらに該当するかを確認した
- 導入を検討しているデジタルツールが補助対象に含まれているか確認した
- 相見積もりを複数社から取得済み、または取得の目処が立っている
- 「誰が・何のデータを・どのように活用するか」の具体的なビジョンを言語化できている
- 交付決定前は発注・契約・支払いを行わないことを関係者全員で共有した
- 令和9年1月8日の完了実績報告締切に間に合う実施スケジュールを組んでいる
- 採択後5年間の効果測定・報告体制を検討している
- 計画申請の締切(令和8年5月29日17:00)を確認した







