助手セバスチャン民泊は180日しか営業できないと知って、それならゲストハウスにしようかと思いまして。こっちなら1年中営業できるんですよね?



そうですね。旅館業の許可を取れば日数制限はありません。ただ、365日営業できるということは、365日分の家賃と人件費がかかるということでもあります。



あっ…たしかに。でも毎日お客さんが来れば問題ないですよね?



その「毎日来るかどうか」がすべてなんです。民泊の収支が日数の上限で決まるとすれば、ゲストハウスや小規模ホテルの収支は稼働率で決まります。その構造を数字で確認していきましょう。
民泊の年間180日という制限を知って、旅館業の許可を取る方向に切り替える方は少なくありません。実際、簡易宿所営業の許可を取れば日数制限はなくなり、事業としての自由度は大きく広がります。
しかし、制度を変えれば収支が良くなるかというと、そう単純ではありません。日数制限がなくなる代わりに、施設としての設備投資が重くなり、無人では回らなくなるため人件費が発生します。固定費が増えた状態で、それを上回る稼働を積めるかどうか。ここが小規模宿泊業の本質的な勝負どころです。



この記事では、ゲストハウスと小規模ホテルの収益構造を分解したうえで、ドミトリー型と個室型の2つのモデルで収支を試算します。あわせて、投資判断の要になる損益分岐稼働率の考え方も整理していきます。
※なお、以下の数字はモデルケースであり、地域や物件によって大きく変わる点はご了承ください。
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売上は「客室数×稼働率×単価×365日」で決まる
ゲストハウスや小規模ホテルの年間売上は客室数×365日×稼働率×1泊単価という式で表せます。民泊が「稼働日数×単価」だったのに対し、変数が2つ増えている点が違いです。
増えた変数のうち、客室数は開業時に決まってしまい、後から変えるのは容易ではありません。単価も相場と競合に規定されます。つまり、開業後に事業者が動かせる余地が最も大きいのは稼働率だということになります。
宿泊業では、この稼働率と単価を掛け合わせた指標をRevPAR(1室あたり販売可能客室収益)と呼びます。1泊15,000円の部屋が7割埋まっていればRevPARは10,500円。単価20,000円で稼働5割ならRevPARは10,000円です。単価が高くても稼働が低ければ収益は変わらない、ということがこの指標で見えてきます。


参考として、観光庁の宿泊旅行統計調査による2025年の客室稼働率は、ビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%、リゾートホテル56.9%、旅館38.2%、そして簡易宿所は29.6%でした。簡易宿所の数字だけが極端に低く見えますが、これはそのまま鵜呑みにできません。
理由は、ドミトリー(相部屋)を持つ施設では、客室稼働率が実態を表さないからです。8人部屋に1人でも泊まれば、その部屋は「稼働」として計上されます。したがってゲストハウスの収益はベッド単位の稼働率で見る必要があります。ベッド稼働率が5割でも、客室稼働率は8割を超えることがある。この違いを理解しないまま統計値と自社を比較しても、意味のある判断はできません。
費用構造:民泊と違って「人件費」が必ず乗る
ゲストハウスや小規模ホテルの費用構造で、民泊と決定的に異なるのが人件費です。
民泊はスマートロックとセルフチェックインで無人運営が成立します。しかしゲストハウスや小規模ホテルでは、チェックイン対応、共用部の管理、宿泊者からの問い合わせ対応が日常的に発生します。旅館業の許可を取る以上、玄関帳場(フロント)またはそれに代わる設備を求められることも多く、実質的に人を置く前提の事業になります。
人件費の水準としては、旅館全体の平均で売上の29.7%程度とされ、40%を超えると経常利益が出にくくなると言われます。フルサービスの旅館ほどではないにせよ、宿泊特化型でも売上の2〜3割は人件費に消えると見ておくべきでしょう。主なランニングコストを整理すると次のようになります。
| 費目 | 目安 | 性質 |
|---|---|---|
| 家賃・地代(賃貸の場合) | 物件による | 固定費 |
| 人件費 | 売上の20〜30% | ほぼ固定費 |
| 清掃委託費 | 1室2,000〜3,500円程度 | 変動費 |
| OTA手数料 | 売上の10〜15%程度 | 変動費 |
| 水道光熱費 | 規模による | 準固定費 |
| 消耗品・リネン | 宿泊者数に比例 | 変動費 |
| 通信・予約システム・広告 | 月5万〜15万円 | 固定費 |
| 保険・修繕・その他 | 月5万〜10万円 | 固定費 |
ここで注目したいのは、固定費の比率が高いという点です。家賃と人件費は、お客様が1人も来ない日でも発生します。これは一見すると不利な性質ですが、裏返せば損益分岐点を超えた後は、追加の売上が高い割合で利益に変わるということでもあります。客室売上は追加分の6〜7割が利益として残ると言われるのは、この構造によるものです。
つまり小規模宿泊業は、損益分岐点までは苦しく、そこを超えると急に楽になる事業です。この特性を理解しておくと、開業初期に稼働率が伸びない時期をどう乗り切るかが計画の中心課題だと分かります。運転資金を3〜6か月分は確保しておくべきだとよく言われるのは、このためです。
初期投資はいくらかかるか
初期投資は、物件を借りるか買うか、そしてどこまで手を入れるかで大きく変わります。改装費の目安としては坪単価30万〜70万円が一つの相場です。30坪の物件であれば900万〜2,100万円ということになります。
この改装費に加えて必要になるのが、旅館業の許可を取るための設備投資です。簡易宿所営業では、客室の延床面積、入浴設備、洗面設備、換気・採光といった構造設備基準を満たす必要があります。既存の建物をそのまま使えるケースは多くなく、水回りの改修が費用の大きな部分を占めることが一般的です。
消防設備も見落とせません。宿泊施設は消防法上の用途区分が住宅とは異なり、自動火災報知設備、誘導灯、消火器などの設置が求められます。建物の規模や構造によっては、スプリンクラー設備が必要になることもあります。この費用は数十万円で済む場合もあれば、数百万円に達することもあり、事前の消防署への相談なしに予算を組むのは危険です。
さらに、建築基準法上の用途変更という論点があります。住宅や事務所だった建物を宿泊施設として使う場合で、その用途に供する部分の床面積が200平方メートルを超えるときは、確認申請が必要になります。この手続きには設計事務所への依頼が伴い、期間も費用もかかります。物件を選ぶ段階でこの点を確認しておかないと、計画が根本から崩れることになります。
これらを合わせると、小規模なゲストハウスで500万〜1,000万円、個室中心の小規模ホテルであれば2,000万円を超えることも珍しくありません。ここに運転資金を上乗せした金額が、必要な資金の総額になります。
あわせて読みたい:旅館業(簡易宿所営業)の許可要件は?構造設備基準と衛生措置基準を解説
収支シミュレーション|ドミトリー型と個室型の2ケース
では、実際に数字を入れてみましょう。
ケースA:ドミトリー中心のゲストハウス(20ベッド)
30坪の物件を家賃25万円で借り、初期投資800万円で開業。ドミトリーと個室を合わせて20ベッド、平均単価4,000円、ベッド稼働率45%と仮定します。人件費はスタッフ分のみで、オーナー自身の労働は含めていません。
| 項目 | 年間金額 |
|---|---|
| 売上(4,000円×3,285ベッド泊) | 13,140,000円 |
| 家賃 | ▲3,000,000円 |
| 人件費 | ▲3,500,000円 |
| OTA手数料(12%) | ▲1,576,800円 |
| 水道光熱費 | ▲1,800,000円 |
| 消耗品・リネン | ▲960,000円 |
| 通信・予約システム・広告 | ▲360,000円 |
| 保険・修繕・その他 | ▲600,000円 |
| 年間営業利益 | 約1,340,000円 |
年間134万円の黒字です。ただしこれはオーナーの労働に対する報酬を含んだ金額ですから、「自分が働いて年収134万円」と読むこともできます。ゲストハウスが「儲かる事業」と言われにくい理由が、この数字に表れています。
ケースB:個室10室の小規模ホテル
家賃70万円の物件を借り、初期投資2,500万円で開業。10室、ADR15,000円、稼働率70%と仮定します。清掃は外部委託(1室3,000円)とします。
| 項目 | 年間金額 |
|---|---|
| 売上(15,000円×2,555室泊) | 38,325,000円 |
| 家賃 | ▲8,400,000円 |
| 人件費 | ▲7,000,000円 |
| 清掃委託費(3,000円×2,555室) | ▲7,665,000円 |
| OTA手数料(12%) | ▲4,599,000円 |
| 水道光熱費 | ▲3,600,000円 |
| 消耗品・リネン | ▲1,800,000円 |
| 通信・予約システム・広告 | ▲1,200,000円 |
| 保険・修繕・その他 | ▲1,200,000円 |
| 年間営業利益 | 約2,860,000円 |
年間286万円、営業利益率にすると7.5%です。宿泊業の営業利益率は減価償却後で6%程度とされますので、おおむね標準的な水準といえます。売上規模は3,800万円を超えていても、手元に残るのはこの程度だという点は、事前に理解しておくべきでしょう。
稼働率が数ポイント動くと利益はどう変わるか
ここまでの試算で最も重要な示唆は、稼働率のわずかな差が利益を大きく動かすという点です。
損益分岐稼働率は、固定費を1泊あたりの限界利益(単価から変動費を引いた額)で割ることで求められます。ケースAでは固定費が926万円、1ベッド泊あたりの限界利益が約3,228円ですから、年間2,869ベッド泊で損益がゼロ。総ベッド泊数7,300で割ると、損益分岐稼働率は約39%です。
同じ計算をケースBで行うと、固定費2,140万円、1室泊あたりの限界利益が約9,495円で、損益分岐は年間2,254室泊。稼働率にして約62%が分岐点になります。
この分岐点を起点に、稼働率が動いたときの利益を並べると次のようになります。
| ケース | 損益分岐 | 基準ケース | 稼働率を上げた場合 |
|---|---|---|---|
| A(ゲストハウス) | 約39% | 45%で約134万円 | 50%で約252万円 |
| B(小規模ホテル) | 約62% | 70%で約286万円 | 80%で約633万円 |
ケースBでは、稼働率が10ポイント上がるだけで利益が2倍以上になります。投資回収期間で見ると、稼働率70%なら初期投資2,500万円の回収に約8.7年かかるのに対し、80%なら約3.9年です。同じ施設、同じ投資額で、回収期間が半分以下になるわけです。
逆方向にも同じことが起きます。稼働率が損益分岐の62%を割り込めば、そこから先は下げ幅に比例して赤字が膨らみます。固定費比率の高い事業とは、そういう性質のものです。
だからこそ、開業前の計画では「平均的な稼働率」を置くのではなく、損益分岐稼働率を先に計算し、それを近隣の同規模施設が実際に達成できているかを確認するという順序が有効です。数字を置く順番を変えるだけで、計画の現実味は大きく変わります。
まとめ:小規模宿泊業は「稼働率を積む事業」
ゲストハウスや小規模ホテルは、民泊のような日数制限がない代わりに、家賃・人件費という固定費を365日負担し続ける事業です。この構造から導かれる結論は、次の3点に整理できます。
第一に、損益分岐稼働率を必ず計算すること。売上見込みではなく、赤字にならない最低ラインを先に把握してください。この数字が地域の実勢を大きく超えているなら、その計画は規模か立地を見直すべきです。
第二に、固定費をどこまで抑えられるかが分岐点を決めること。家賃の安い物件、オーナー自身が現場に立てる体制、清掃の内製化。こうした選択が、そのまま損益分岐稼働率の低さにつながります。開業時に背伸びした投資をすると、その分だけ必要な稼働率が上がります。
第三に、分岐点を超えた後の伸びは大きいこと。稼働率10ポイントの改善が利益を倍にする事業ですから、開業後の努力が報われやすい構造でもあります。悲観だけの話ではありません。
なお、旅館業の許可を取るのか、それとも民泊新法や特区民泊で始めるのかという制度選択も、収支の前提を左右します。設備投資を抑えて小さく始めたいのか、通年稼働で規模を追いたいのか。事業として何を目指すかを先に決めてから、それに合う制度を選んでいきましょう。
あわせて読みたい:旅館業の許可申請の流れと必要書類|取得までの期間と費用の目安



稼働率が10%上がるだけで利益が倍になるんですね…!逆に言えば、下がったときも怖いということですか。



そのとおりです。だからこそ、最初に損益分岐稼働率を出しておくことが大事なんですよ。目標ではなく、下回ってはいけない線として持っておいてください。



分かりました!では僕は稼働率200%を目指します。1つのベッドに2人ずつ寝てもらえば計算上いけますよね?



どうですかね?定員は許可の内容で決まっていますし、そもそもお客様が納得しないと思いますよ。









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