助手セバスチャン実家の古民家が空いているので、宿にしたいなと思っているんです。宿を開くには旅館業の許可が要るんですよね?



そのとおりです。ただ、ひとくちに旅館業の許可といっても営業種別が分かれていて、どれで取るかによって満たすべき基準が変わってきます。



えっ、種類があるんですか。古民家だと…旅館、ですかね?



名前のイメージで決まるわけではないんです。判断のポイントは客室の構造にあります。同じ古民家でも、部屋ごとに貸すのか、相部屋で貸すのかで答えが変わります。順番に整理していきましょう。
インバウンド需要の回復を背景に、宿泊施設の開業に関心を持つ方が増えています。大規模なホテルだけでなく、空き家となった古民家を一棟貸しの宿にする、使わなくなった店舗を数室のゲストハウスに改装するといった小規模な形態も広がってきました。
その際に必ず登場するのが旅館業法です。宿泊事業を営むには、原則としてこの法律に基づく営業許可が必要になります。ところが実際に調べ始めると、「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」といった聞き慣れない区分や、民泊との関係が絡み合い、自分の計画がどこに当てはまるのか分かりにくいのが実情です。
ここで押さえておきたいのは、営業種別の選択とは、実質的に「どの構造設備基準を満たすか」の選択であるということです。施設の呼び名を決める作業ではありません。この視点を持っておくと、物件を探す段階から判断を誤りにくくなります。



本記事では、旅館業の定義から営業種別ごとの違い、民泊との使い分け、許可までの実務的な流れまでを順に解説していきます。
旅館業とは「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」


旅館業に当たるかどうかは、次の3つの要素をすべて満たすかどうかで判断されます。施設を設けていること、宿泊料を受けていること、人を宿泊させることの3点です。
旅館業法では、営業種別ごとに次のように定義されています。
この法律で「旅館・ホテル営業」とは、施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。
旅館業法 第2条第2項より
ここでいう「宿泊」も、日常語よりも限定された意味を持っています。
この法律で「宿泊」とは、寝具を使用して前各項の施設を利用することをいう。
旅館業法 第2条第5項より
つまり、寝具を使用させることが旅館業の要件になっています。座席だけを提供する施設や、寝具を使わせない休憩施設は、この定義から外れることになります。
実務上よく問題になるのが、「宿泊料」に当たるかどうかの判断です。宿泊料という名目でなくても、休憩料、寝具のクリーニング代、光熱費といった名称で実質的に宿泊の対価を受け取っていれば、宿泊料と判断されます。「会費」や「協力金」としていても同様です。逆に、まったく対価を受け取らずに知人を泊める行為は旅館業には当たりません。
もう一つの境界線が、「生活の本拠かどうか」です。アパートやマンションの賃貸は、借主の生活の本拠を提供するものであり旅館業には当たりません。一方、旅館業は施設の管理・経営を事業者側が継続して行い、利用者は一時的に滞在するにすぎない、という関係になります。ウィークリーマンションのように期間が長めの形態でも、実態として事業者が施設を管理し、清掃や寝具の提供を行っているなら旅館業と判断されることがあります。名称ではなく実態で判断される点に注意が必要です。
なお、許可を受けずに旅館業を営んだ場合の罰則は決して軽くありません。6か月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科と定められています(旅館業法第10条)。この罰金額は2018年の法改正で3万円から大幅に引き上げられたもので、無許可営業に対する姿勢が厳しくなっていることの表れといえます。
営業種別は3つ ― 2018年の法改正でホテル営業と旅館営業が統合された
現在の旅館業は、旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3種類に分かれています。かつては4種類でしたが、2018年6月15日施行の改正でホテル営業と旅館営業が統合され、現在の形になりました。
古い情報源では「ホテル営業」「旅館営業」が別々に説明されていることがありますが、これは改正前の区分です。当時は、ホテル営業は洋室10室以上、旅館営業は和室5室以上といった最低客室数の要件があり、洋室の構造設備についても細かい規定が置かれていました。営業形態を先に決めなければならない仕組みだったわけです。
| 時期 | 営業種別 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 2018年6月14日まで | ホテル営業/旅館営業/簡易宿所営業/下宿営業 | 最低客室数の規定あり(ホテル10室・旅館5室) |
| 2018年6月15日以降 | 旅館・ホテル営業/簡易宿所営業/下宿営業 | 最低客室数の規定は撤廃。1室からでも許可取得が可能に |
改正で緩和されたポイントは大きく2つあります。1つは、いま述べた最低客室数の撤廃です。これにより、客室が1室しかない一棟貸しの宿でも旅館・ホテル営業の許可を取れるようになりました。古民家を活用した小規模な宿が増えた背景には、この改正があります。
もう1つが、玄関帳場(フロント)の設置義務の緩和です。従来は原則としてフロントの設置が求められていましたが、改正後は、ビデオカメラなどの情報通信技術を活用して宿泊者の本人確認ができ、緊急時に迅速に対応できる体制が整っていれば、フロントを設けない運用が認められるようになりました。テレビ電話やタブレット端末で顔と本人確認書類を鮮明に確認できること、事故発生時にすぐ駆けつけられる体制があることなどが条件となります。スタッフの常駐が難しい小規模施設にとっては、現実的な選択肢が広がったといえます。
ただし、これらは全国一律のルールではありません。構造設備の細目や玄関帳場の代替要件は、各自治体の条例で上乗せ・具体化されているのが実情です。施設の所在地によって求められる水準が異なるため、必ず管轄の保健所に確認する必要があります。
なお、3つ目の下宿営業は、1か月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を指します。学生寮のような形態が想定されており、観光目的の宿泊施設で選択されることはほとんどありません。
旅館・ホテル営業と簡易宿所営業はここが違う【構造設備基準の比較】


両者を分けるのは宿泊する場所を多数人で共用する構造かどうかという点です。
旅館業法では、簡易宿所営業を次のように定義しています。
この法律で「簡易宿所営業」とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業をいう。
旅館業法 第2条第3項より
ドミトリー形式のゲストハウス、カプセルホテル、山小屋、民宿などがこれに当たります。一方、部屋ごとに区切って貸す一般的なホテルや旅館は、旅館・ホテル営業になります。この区分に応じて、旅館業法施行令第1条が定める構造設備基準が変わってきます。
| 項目 | 旅館・ホテル営業 | 簡易宿所営業 |
|---|---|---|
| 客室の面積基準 | 1客室あたり7平方メートル以上(寝台を置く客室は9平方メートル以上) | 客室の延床面積33平方メートル以上(宿泊者数を10人未満とする場合は3.3平方メートル×宿泊者数以上) |
| 面積の考え方 | 1室ごとに判定する | 客室全体の合計で判定する |
| 寝台の規定 | 特段の規定なし | 階層式寝台は上段と下段の間隔をおおむね1メートル以上とする |
| 想定される施設 | ホテル、旅館、一棟貸しの宿、ペンション | ゲストハウス、カプセルホテル、山小屋、民宿 |
| 共通して必要な設備 | 換気・採光・照明・防湿・排水の設備、適当な数の入浴設備・洗面設備・便所、条例で定める基準への適合 | |
実務上とりわけ重要なのが、面積の判定方法の違いです。旅館・ホテル営業は1室ごとに7平方メートル(ベッドを置くなら9平方メートル)を確保しなければなりません。狭い部屋が1つでもあれば、その部屋は客室として認められないことになります。対して簡易宿所営業は客室全体の合計で判定するため、小部屋を組み合わせる形でも基準を満たしやすくなります。
もう一つ押さえておきたいのが、簡易宿所の33平方メートルという基準に例外がある点です。2016年の規制緩和により、一度に宿泊させる宿泊者数を10人未満とする場合は、宿泊者1人あたり3.3平方メートルで足りることとされました。たとえば定員6人であれば19.8平方メートル以上で許可を受けられます。小規模な物件を活用しやすくなった重要な改正です。
古民家を宿にする場合を考えてみましょう。部屋数はあるものの1室あたりが狭い、という物件は珍しくありません。この場合、旅館・ホテル営業で申請すると各室が面積基準を満たさない可能性がありますが、簡易宿所営業であれば延床面積の合計で判定されるため許可を得やすくなります。
ただし、簡易宿所は「多数人で共用する構造を主とする」施設であることが前提です。完全に個室として区切り、鍵をかけて1組ずつに貸す形態であれば、旅館・ホテル営業と判断される場合もあります。どちらで申請するかは、図面を持って保健所に事前相談し、判断を仰ぐのが確実です。
あわせて読みたい:宿坊とは?普通の旅館・民宿と何が違うの?法的位置づけと開業手続きまで解説
旅館業の許可と民泊(住宅宿泊事業)はどう違う?
宿泊事業を始める方法は、旅館業の許可を取る道だけではありません。住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく届出という選択肢もあります。両者は制度の建てつけがまったく異なります。
| 項目 | 旅館業(簡易宿所営業など) | 住宅宿泊事業(民泊) |
|---|---|---|
| 手続き | 許可(都道府県知事等) | 届出(都道府県知事等) |
| 営業日数 | 制限なし | 年間180日が上限 |
| 用途地域 | 住居専用地域では原則不可 | 住宅として住居専用地域でも可能(条例による制限あり) |
| 建物の扱い | ホテル・旅館(用途変更が必要な場合あり) | 住宅のまま |
| ハードル | 構造設備基準・消防設備の要求水準が高い | 比較的低い |
判断の軸はシンプルです。年間を通じて営業して事業として収益を上げたいなら旅館業、空き部屋を副次的に活用したいなら民泊、という整理になります。民泊の180日制限は、稼働率を単純計算しても年間の半分弱しか営業できないことを意味するため、これを本業として成立させるのは容易ではありません。
一方で、旅館業には用途地域の壁があります。ホテル・旅館は、第一種・第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、田園住居地域、工業地域、工業専用地域では原則として建てられません。閑静な住宅街の物件を見つけても、旅館業の許可が取れないケースがあるということです。住宅として扱われる民泊にはこの制限がかからないため、立地条件によっては民泊しか選べない場合もあります。


このほか、国家戦略特別区域に指定された地域では、特区民泊という制度も利用できます。これは旅館業法の適用を除外して自治体の認定を受ける仕組みで、営業日数の上限がない代わりに、最低宿泊日数(2泊3日以上)が定められているのが特徴です。実施している自治体は限られるため、計画地が対象となっているかを確認するところから始めることになります。
許可申請の流れと、旅館業法以外に必要な手続き
旅館業の許可は、旅館業法だけを見ていては取得できません。建築基準法と消防法という2つの法律を同時に満たす必要があるからです。ここを知らずに物件を契約してしまい、想定外の工事費が発生するケースは少なくありません。
一般的な流れは次のとおりです。
- STEP1 保健所への事前相談:図面を持参し、営業種別の判断と構造設備基準への適合を相談します。物件契約の前が理想です
- STEP2 建築基準法の確認:宿泊施設として使うには、建物の用途が「ホテル・旅館」である必要があります。他の用途から変更する場合、その部分の床面積が200平方メートルを超えるときは用途変更の確認申請が必要です
- STEP3 消防署への相談と設備工事:自動火災報知設備、誘導灯、消火器などを設置し、消防法令適合通知書の交付を受けます
- STEP4 許可申請:申請書、図面、登記事項証明書などを添えて保健所に提出します(手数料はおおむね2万円前後、自治体により異なります)
- STEP5 施設検査:保健所職員による立入検査を受け、基準への適合が確認されると許可証が交付されます
とくに時間と費用がかかるのが、STEP2とSTEP3です。用途変更の確認申請が必要になると、建築士への設計依頼が発生し、現行の建築基準法に適合させるための改修工事が必要になることもあります。古い建物では、耐火性能や避難経路の確保が課題になりやすい部分です。
消防設備についても、宿泊施設は不特定多数が就寝する施設として厳しい基準が適用されます。施設の規模や構造によって求められる設備は変わりますが、既存の住宅をそのまま使えることはまずないと考えておくべきでしょう。中古物件を検討する際は、消防設備の設置費用を必ず資金計画に織り込んでおく必要があります。
※なお、旅館業の許可申請と消防・建築の手続きは並行して進めるものであり、順番待ちをしていると開業が大幅に遅れます。事前相談の段階で、保健所・消防署・建築部局の3か所を回っておくことをおすすめします。
このほか、施設内でレストランを営むなら飲食店営業許可、客室で提供する酒類を販売の形で扱うなら酒類販売業免許、温泉を利用するなら温泉法の許可と、付随する手続きも出てきます。宿泊料以外の収益源を考えている場合は、あわせて確認しておきましょう。
あわせて読みたい:宿泊事業者が気にすべき景品表示法の規制とは?よくある違反例と対策を解説
まとめ:施設の形から営業種別を逆算する
旅館業に当たるかどうかは、施設を設け、宿泊料を受けて、寝具を使用させて人を宿泊させているか、という実態で判断されます。名称や契約の形式で決まるものではありません。無許可営業には6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金という重い罰則が定められており、「知らなかった」では済まされない領域です。
営業種別は、旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3つ。観光目的の宿泊施設では前の2つが選択肢になります。両者を分けるのは宿泊場所を多数人で共用する構造かどうかで、それに応じて客室の面積基準が変わります。1室あたり7平方メートル(寝台を置く場合は9平方メートル)で判定する旅館・ホテル営業に対し、簡易宿所営業は客室の延床面積33平方メートル以上、定員10人未満なら1人あたり3.3平方メートルで判定されます。小さな部屋が複数ある古民家では、簡易宿所のほうが基準を満たしやすい傾向があります。
そして、営業種別の検討は物件探しと同時に始めるべきものです。用途地域によっては旅館業の許可自体が取れず、建物の状態によっては用途変更や消防設備で大きな費用が発生します。「どんな宿にしたいか」から営業種別を逆算し、その条件に合う物件を探すという順序で進めると、無駄な手戻りを避けられます。
なお、構造設備の細目や玄関帳場の代替要件、申請手数料などは、条例によって自治体ごとに運用が異なります。また、旅館業法は2023年にも宿泊拒否事由の見直しなどの改正が行われており、制度は少しずつ変化しています。準備を始める際は、管轄の保健所・消防署・建築部局の最新情報を必ずご確認ください。



なるほど…!うちの古民家は部屋は多いけど一つひとつが狭いので、簡易宿所のほうが向いているかもしれませんね。まずは図面を持って保健所に相談してみます。



それがいちばんの近道ですね。物件を契約したあとで「用途変更に数百万円かかります」と言われるのが最悪のパターンですから、順番を間違えないようにしましょう。



よし、じゃあ客室を全部つなげて一つの大部屋にします!延床面積で判定されるなら、33平方メートルの巨大な相部屋、これで一発クリアです!



どうですかね?誰も泊まりたがらない宿になってしまうんじゃないでしょうか。







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