助手セバスチャン知り合いの酒蔵さんが「観光客を受け入れたい」と相談してきたんです。見学して、試飲して、その場で買ってもらう。これなら追加の許可は要らないですよね?



見学だけなら特別な許可は要りません。製造場で自社のお酒を売るのも、販売業免許は不要です。ただ、試飲を有料にした瞬間に話が変わります。



えっ、無料か有料かで違うんですか?



はい。有料で飲ませるなら、保健所の飲食店営業許可が必要になります。「見せる」「飲ませる」「売る」のどこまでをやるかで、必要な許認可が変わってくるんですよ。一つずつ整理していきましょう。
日本酒や焼酎の蔵を訪れ、造りの現場を見学し、その場で味わい、気に入ったものを買って帰る。酒蔵ツーリズムと呼ばれるこの取り組みは、いま各地で広がっています。
背景にあるのは、訪日客の増加と日本産酒類への関心の高まりです。国税庁も「酒蔵ツーリズム推進事業」として支援を行ってきており、輸出振興と地域活性化の両面から期待が寄せられています。蔵元にとっても、製造して卸すだけでなく、直接お客様と接点を持ち、単価の高い売上を作れるという意味があります。
ただし、事業の幅を広げれば、その分だけ関わる法律も増えます。見学だけなら手続きは軽くても、試飲を有料にし、レストランを併設し、宿泊まで受け入れるとなれば、監督官庁は税務署、保健所、そして場合によっては旅行業の登録先まで広がります。



この記事では、酒蔵ツーリズムを構成する要素ごとに、どのような許認可が必要になるのかを整理していきます。
酒蔵ツーリズムとは?——蔵が観光の目的地になる


酒蔵ツーリズムとは、日本酒や焼酎などの蔵を訪れ、製造工程の見学、試飲、地域の食や文化とあわせて楽しむ観光の形をいいます。国が音頭を取って推進協議会が設けられ、各地で取り組みが広がってきました。
蔵元にとっての意味は、大きく3つあります。
①単価の高い売上が生まれる
卸売では蔵元の手取りが限られますが、蔵で直接販売すれば、その差額が手元に残ります。これは前回までの記事で見た、酒販店やブルワリーの構造と同じです。
②ファンが育つ
造り手の顔が見え、現場の空気を体験した人は、その後も継続して買ってくれる可能性が高くなります。地方の小規模な蔵にとって、価格ではなく物語で選ばれる関係は貴重です。
③輸出やインバウンドへの接点になる
海外からの来訪者に体験してもらうことは、そのまま海外市場への入口になります。
一方で、注意すべきは「一つ足すごとに窓口が増える」という構造です。見学だけなら税務署とも保健所とも新たな関係は生じませんが、有料試飲を始めれば保健所、売店を製造場の外に作れば税務署、食事を出せば再び保健所、宿泊を受ければ旅館業。やりたいことを決める順序と、許認可を確認する順序を揃えることが重要になります。
見学の受け入れ——許可は不要だが、押さえるべき安全と衛生
まず見学からです。結論として、製造場の見学を受け入れること自体には、特別な許可は必要ありません。入場料や見学料を取る場合も同様です。
ただし、許可が不要であることと、何も考えなくてよいことは別です。押さえるべき点が2つあります。
食品衛生上の管理
酒類は食品ですから、製造場は衛生的に管理されている必要があります。そこに不特定多数の来訪者を入れるということは、汚染のリスクを持ち込むということでもあります。見学者用の動線を製造工程から分ける、ガラス越しの見学とする、白衣やヘアキャップの着用を求める、手指の消毒を徹底する。こうした運用を設計しておく必要があります。衛生管理計画のなかに、見学者の受け入れをどう位置づけるかを明記しておくとよいでしょう。
安全管理
製造場には段差、濡れた床、タンク、機械があります。転倒や接触の事故が起きれば、施設側の責任が問われます。見学ルートの安全確認、注意事項の説明、そして施設賠償責任保険への加入を検討してください。
もう一点、旅行業との関係にも触れておきます。自社の施設を見学してもらい、その対価として見学料を受け取ることは、旅行業には当たりません。しかし、宿泊施設や交通機関の手配を組み合わせて、一つの企画商品として販売するとなると話が変わります。他社のサービスを組み合わせて対価を得る形は、旅行業法上の旅行業に該当し、登録が必要になる可能性があります。
地域で「蔵めぐりツアー」のような企画を立てる場合は、誰が企画し、誰が販売し、宿泊や交通をどう扱うのかを整理したうえで、必要に応じて登録済みの旅行業者と組むことを検討してください。
試飲——無料と有料で扱いが変わる
ここが最も判断を誤りやすい部分です。試飲は、無料か有料かで扱いが変わります。
無料試飲は、販売促進の一環として位置づけられます。買ってもらうために味を確かめてもらう行為ですから、これ自体に新たな許可は必要ありません。多くの蔵が売店の一角で行っている形です。
有料試飲になると、話が変わります。お金を受け取ってその場で飲ませる行為だからです。
まず酒税法の側から見ると、酒類の販売業には免許が必要というのが原則です。ただし酒税法第9条第1号のただし書きは、酒類を自己の営業場において飲用に供する業については、販売業免許を要しないとしています。居酒屋やバーが酒類販売業免許なしで営業できるのは、この規定によるものです。有料試飲も、その場で飲み切ってもらう形であれば、これに該当します。
つまり、有料試飲に酒類販売業免許は不要です。
しかし、食品衛生法の側では飲食店営業許可が必要になります。その場で飲食させる営業を行う以上、保健所の許可を受けるのが原則です。酒販店が有料でグラスに注いで試飲させる場合も同様に扱われます。
必要な設備としては、専用の手洗い設備、洗浄設備、グラスの保管場所などが求められます。既存の売店スペースをそのまま使えるとは限りませんので、改装の前に保健所へ相談してください。なお、運用には自治体ごとの差がありますので、自己判断は避けるのが賢明です。
そしてもう一つ、実務として避けて通れないのが飲酒運転の防止です。地方の蔵は車でなければ来られない立地にあることが多く、試飲と運転は常に隣り合わせです。来訪時に運転者かどうかを確認する、運転者にはノンアルコールの提供や酒粕を使った甘味を用意する、最寄り駅からの送迎を行う、団体にはバス利用を促す。「飲ませて売る」以上、この対策は事業者の責任として組み込むべきものです。
直売所——製造場の内か外かで変わる
次に販売です。ここは製造場の内か外かが分かれ目になります。
酒税法第9条は、酒類製造者がその製造免許を受けた製造場において、製造免許を受けた品目の酒類を販売する場合には、販売業免許を要しないとしています。したがって、蔵の敷地内、免許を受けた製造場の範囲で、自社が造った酒を売る分には、新たな免許は不要です。
問題になるのは、次のようなケースです。
- 製造場の外に売店を設ける場合:たとえば道路を挟んだ向かいの建物、駅前のアンテナショップなど。この場合は一般酒類小売業免許が必要になります
- 他社の酒を扱う場合:近隣の蔵の商品や、輸入ワインなどを一緒に売るなら、自社製造酒の例外は使えません。一般酒類小売業免許が必要です
- 通信販売を行う場合:2以上の都道府県の消費者に向けて通販するなら、通信販売酒類小売業免許が必要です
また、酒類以外の商品を扱う場合にも注意が必要です。酒粕、甘酒、地元の食品などを販売するなら、食品衛生法上の営業許可または届出が必要になることがあります。自社で加工するのか、仕入れて売るだけなのか、要冷蔵かどうかによって扱いが変わりますので、こちらも保健所への確認が必要です。
「製造場の範囲」がどこまでかは、酒類製造免許の申請時に図面で特定されています。売店を新設・移設する際は、その位置が製造場の範囲に含まれるかどうかを、所轄税務署の酒類指導官に確認してください。
あわせて読みたい:通信販売酒類小売業免許とは?ネットでお酒を売るための条件を解説
さらに広げるなら——飲食・宿泊・イベント


見学・試飲・直売の先に、事業を広げる選択肢もあります。それぞれ必要な手続きを整理すると次のとおりです。
| やりたいこと | 必要になる主な手続き | 窓口 |
|---|---|---|
| 有料試飲 | 飲食店営業許可 | 保健所 |
| レストラン・カフェの併設 | 飲食店営業許可、食品衛生責任者の設置 | 保健所 |
| 製造場外での酒類販売 | 一般酒類小売業免許 | 税務署 |
| ネット通販 | 通信販売酒類小売業免許 | 税務署 |
| 蔵に宿泊させる | 旅館業の許可(多くは簡易宿所営業) | 保健所 |
| イベント会場での臨時販売 | 期限付酒類小売業免許(届出で足りる取扱いあり) | 税務署 |
| イベントでの飲食提供 | 臨時営業の許可等 | 保健所 |
| 宿泊・交通を組み合わせた企画商品の販売 | 旅行業の登録が必要になる場合がある | 都道府県等 |
※取扱いは自治体・税務署により異なります。必ず事前にご確認ください。
このうち期限付酒類小売業免許は、酒蔵にとって使いやすい制度です。地域のイベントや物産展などで臨時に酒類を販売する場合の仕組みで、酒類製造者が自社で製造した酒類を販売する場合には、届出で足りる取扱いがあります。イベント出店を計画しているなら、所轄税務署に確認してみてください。
蔵に泊まってもらうという形も、近年増えています。使われなくなった蔵や母屋を改装して宿泊施設にする取り組みです。この場合は旅館業の許可が必要で、多くは簡易宿所営業として申請することになります。建物が古い場合は建築基準法の用途変更や消防設備の問題も生じますので、企画の初期段階から確認が必要です。
あわせて読みたい:旅館業法の営業許可とは?旅館・ホテル営業と簡易宿所営業の違いを解説
まとめ:やりたいことを並べてから、必要な許認可を引く
進め方としておすすめしたいのは、やりたいことを先に全部書き出すことです。「今年は見学と無料試飲だけ、来年は有料試飲、いずれはレストランも」というように段階を分けて構想を並べれば、それぞれの段階で必要な手続きが見えてきます。そして施設の改装は、将来の計画も含めて設計しておくほうが、後から手を入れるより安く済みます。
酒蔵ツーリズムは、蔵の価値を直接届けられる取り組みです。手続きは決して少なくありませんが、一つずつ順番に確認していけば必ず進められます。
なお、許可の要否や運用は自治体・税務署によって異なります。この記事は一般的な考え方を整理したものですので、実際の計画にあたっては所轄税務署の酒類指導官と管轄の保健所にご相談ください。



無料試飲と有料試飲で、こんなに違うんですね。有料にするなら飲食店営業許可か…。保健所に相談してくるよう伝えます。



それと飲酒運転の対策も忘れずに。地方の蔵だと車で来られる方が多いですから、送迎やノンアルの用意まで含めて設計してください。



分かりました!では運転される方には、試飲したお酒を持ち帰ってご自宅で飲んでいただきます。名付けて「持ち帰り試飲」!



それはもう試飲ではなく、普通に販売だと思いますよ。









