改正旅館業法の宿泊拒否事由とは?カスタマーハラスメントへの対応方法を解説

助手セバスチャン

法改正でカスタマーハラスメントを理由に宿泊を断れるようになったと聞きました。これで無茶な要求をしてくるお客様は、その場で断れますね!

行政書士けいしー

少し落ち着きましょう。たしかに新しい拒否事由は加わりましたが、その場で一度断れるという制度ではありません。

助手セバスチャン

えっ、そうなんですか?せっかく法律が変わったのに。

行政書士けいしー

大前提として、旅館業法は今も「正当な理由がなければ宿泊を拒んではならない」という立て付けです。改正で変わったのは、その正当な理由の中身が明確になったこと。そして新しい事由には繰り返したときという条件が付いています。どこまで断れて、どこから断ってはいけないのか。順番に整理していきましょう。

宿泊業を営んでいると、対応に苦慮する場面に必ず出会います。契約にないサービスを強く求められる、従業員に対して謝罪を執拗に迫られる、電話や対面で長時間にわたって同じ要求を繰り返される。こうした行為は現場の従業員を疲弊させ、他の宿泊者へのサービスにも影響します。

2023年12月13日に施行された改正旅館業法は、この問題に一つの答えを出しました。いわゆるカスタマーハラスメントを理由として、宿泊を拒むことができる場合を明文化したのです。

ただし、この改正を「迷惑な客は断れるようになった」と理解するのは誤りです。宿泊拒否が原則として禁止されているという構造は、まったく変わっていません。さらに2026年10月からは、カスタマーハラスメント対策そのものが事業主の義務になります。

行政書士けいしー

この記事では、どこまで断れるのか、断ってはいけないのはどんな場合か、そして今から何を準備すべきかを整理していきます。

目次

2023年12月の法改正で何が変わったのか——原則は「拒めない」まま

旅館業法の基本構造は宿泊拒否の原則禁止です。改正はこの原則を変えたものではなく、例外として認められる事由を明確にしたものです。

営業者は、次に掲げる場合を除いては、宿泊を拒んではならない。

三 宿泊しようとする者が営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき。

旅館業法 第5条第1項より(抜粋)

この条文の構造をよく見てください。「次に掲げる場合を除いては、宿泊を拒んではならない」。つまり列挙された事由に当たらない限り、宿泊は受け入れなければならないということです。

なぜここまで厳しい規制がかかっているのか。旅館業は、公共性の高い事業だと位置づけられているからです。旅先で宿を確保できないことは、その人の移動や生活そのものを妨げます。特定の属性を理由に宿泊を断ることが横行すれば、事実上その地域から排除されることにもなりかねません。だからこそ、拒否は限定的にしか認められていないのです。

改正で第3号が加わった趣旨は、この原則を維持しつつ、現場の従業員を守る必要性とのバランスを取ることにありました。従業員が過度な要求に晒され続ければ、他の宿泊者へのサービスも成り立たなくなります。その意味で、この改正は「事業者の権利拡大」ではなく「サービス提供体制の保護」として理解するのが正確です。

宿泊を拒める事由を整理する

改正後に宿泊を拒むことができる事由を整理すると、次のようになります。

事由内容と注意点
①特定感染症の患者等であるとき特定感染症が国内で発生している期間に限られる。平時に体調不良を理由として断ることはできない
②違法行為・風紀を乱す行為のおそれ賭博その他の違法行為や、風紀を乱す行為をするおそれがあると認められる場合
③特定要求行為を繰り返したときいわゆるカスタマーハラスメント。単発の要求では該当しない
④施設に余裕がないとき等満室の場合のほか、都道府県が条例で定める事由。条例の内容は自治体ごとに異なる

※④の条例事由には「他の宿泊者に著しく迷惑を及ぼすおそれがあるとき」などが定められている例があります。管轄自治体の条例をご確認ください。

このうち①については、誤解が生じやすいので補足します。ここでいう特定感染症とは、新型インフルエンザ等感染症など法令で定められたものを指し、しかもそれが国内で発生している期間に限って適用されます。「咳をしているから」「熱がありそうだから」といった理由で日常的に宿泊を断ることは認められません。

②についても、実際に違法行為が行われた場合だけでなく「おそれがあると認められるとき」が対象ですが、これは客観的な根拠を要します。見た目や国籍、職業といった属性による推測は根拠になりません。

そして③が今回の改正の中心です。次のセクションで詳しく見ていきます。

カスハラを理由に拒否できるのはどんな場合か

第3号による拒否が認められるには、3つの要素が揃っている必要があります。

第一に、要求の内容が社会通念上相当な範囲を著しく超えていること。通常のサービスの範囲を超えた、過大な要求であることが前提です。単に要望が多い、注文が細かいというだけでは該当しません。

第二に、態様が執拗であること。丁寧に説明して引き下がる相手は対象になりません。説明しても繰り返し同じ要求を続ける、といった状況が想定されています。

第三に、反復継続していること。条文にある「繰り返したとき」がこれにあたります。一度の要求では拒否できません。ここが最も誤解されやすい点です。

具体的に該当し得る例としては、次のようなものが挙げられています。

  • 不当な割引や、契約に含まれていない送迎などの過剰なサービスを求める行為
  • 従業員に対して土下座などの不当な行為を求める行為
  • 対面や電話で、長時間にわたって不当な要求を繰り返す行為
  • 正当な理由のないアーリーチェックインを執拗に求める行為

一方で、次のようなものは該当しません。設備の不具合について改善を求める、提供されたサービスが説明と違うことを指摘する、といった正当な内容の申出です。これらは要求ではなくクレーム対応の領域であり、事業者として誠実に応じるべきものです。

実務上の要点は、この3要素を満たしたことを示せるかどうかにあります。「繰り返した」と言うためには、いつ、どのような要求が、どのようになされたかの記録が不可欠です。1回目の要求の時点では拒否できませんが、その1回目を記録しておかなければ、2回目に拒否する根拠を示せません。記録は拒否の前提条件だと考えてください。

拒否してはいけないケース——障害を理由とする拒否は違法

ここは特に慎重に扱うべき領域です。障害を理由として宿泊を拒むことは認められません。

障害者差別解消法は、事業者に対して障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止するとともに、合理的配慮の提供を求めています。改正旅館業法も、この考え方を前提に運用されます。

したがって、次のような求めは特定要求行為には該当しません。

  • 車いすでの移動を補助してほしいという求め
  • 視覚障害のある方への誘導や、館内の案内をしてほしいという求め
  • 聴覚障害のある方への筆談による対応の求め
  • 介助者が同伴することについての求め

これらは合理的配慮の求めであり、事業者が応じるべき内容です。「手間がかかるから」という理由で断れば、法令違反と評価されます。

とりわけ問題になりやすいのが、合理的配慮を検討しないまま断ってしまうパターンです。たとえば「介助者の同伴がなければ受け入れられない」と一律に通知するような対応は、個別の状況を検討していない点で不当な取扱いとされます。

もちろん、合理的配慮には「過重な負担」とならない範囲という限界があります。しかしその判断は、施設の規模、体制、費用などを踏まえて個別に検討したうえで行う必要があります。検討の結果として難しい場合は、代替となる方法を一緒に考える姿勢が求められます。

結論として、合理的配慮が原則、拒否は例外という順序を崩さないことが重要です。カスタマーハラスメントへの対応と、障害のある方への対応は、まったく別の問題として整理してください。この線引きを従業員が誤ると、法令違反と評判の毀損の両方を招きます。

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2026年10月からカスハラ対策が全事業者の義務に

もう一つ、押さえておくべき動きがあります。2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が事業主の措置義務になります。

根拠となるのは、2025年6月に公布された改正労働施策総合推進法です。これは旅館業に限った規制ではなく、あらゆる事業主が対象になります。労働者が1人でもいれば対象であり、中小企業への適用猶予もありません。

求められる措置の内容は、おおむね次のとおりです。

  • カスタマーハラスメントに対する方針を明確化し、従業員に周知すること
  • 相談に応じ、適切に対応するための体制を整備すること
  • 実際に発生した場合に、適切かつ迅速に対応すること
  • 被害を受けた労働者に配慮した取組を行うこと

宿泊業は、この義務との関係で特に注意が必要な業種です。対面での接客が中心であり、しかも宿泊という長時間の関係が生じるため、他業種よりもカスタマーハラスメントが起きやすい環境にあります。フロントに1人で立つ時間帯があれば、その従業員は逃げ場のない状況で対応することになります。

やるべきことは、旅館業法への対応と重なる部分が多くあります。どのような要求には応じ、どこからは断るのかという方針を文書にする。従業員が一人で抱え込まずに相談できる窓口を決める。発生時の記録と報告のルートを整える。これらは第3号による宿泊拒否の判断にもそのまま使えます。

旅館業法への対応とカスハラ対策を一体のものとして整備するのが、最も効率的な進め方です。

まとめ:判断基準を先に作り、記録を残す

実務として最も効果があるのは、判断基準を先に文書化しておくことです。その場の判断に委ねると、対応がぶれ、従業員によって結論が変わります。拒否の判断は複数名で行い、日時・対応者・要求の内容・経緯を記録に残しましょう。自治体によっては、条例で記録の作成と一定期間の保存が求められている例もあります(大阪府では、日時、対象者と責任者の氏名、拒否の理由と経緯を記載した書面を3年間保存することとされています)。

なお、条例で定められる拒否事由や記録の取扱いは自治体によって異なります。この記事は一般的な考え方を整理したものですので、実際の運用は管轄の保健所にご確認ください。基準を先に決めておけば、現場は迷わずに済みます。それが従業員を守り、結果として宿泊者へのサービスを守ることにつながります。

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助手セバスチャン

なるほど…その場ですぐ断れるわけではなくて、記録を積み重ねて初めて判断できるんですね。障害のある方への対応とは全然別の話だというのも、よく分かりました。

行政書士けいしー

そこを混同しないことが何より大事です。それと2026年10月からは、従業員を守る体制づくりそのものが義務になります。早めに準備を始めてください。

助手セバスチャン

分かりました!では基準を明確にするため、フロントに「無茶な要求は3回まで」と大きく貼り出しておきます。これで公平ですね!

行政書士けいしー

3回まではいいと宣言しているようなものですけど、いいんですか?

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