宿泊事業者の皆様にとって、人手不足はもはや避けては通れない最大の経営課題と言っても過言ではありません。まもなく公募が開始される「観光地・観光産業における省力化投資補助事業」は、単なる資金援助に留まらず、宿泊施設のオペレーションを根本から効率化し、収益性を向上させるための「経営改革」を支援する制度です。
対象事業者は旅館業許可を取得した宿泊事業者に限定されています。また、補助対象の経費も省力化に資する設備やシステムへの投資が前提とはなりますが、補助金額は1施設あたり1,000万円と比較的高額であり1事業者につき3施設が上限と複数施設が対象になる点も魅力です。
行政書士けいしー近々設備投資やシステム導入を検討している方にぴったりの補助金となっています。詳細を解説していきますので、ぜひ参考にしてください!
あなたの施設は対象?申請資格について
申請にあたっては、形式的な資格だけでなく、地域社会との関わりも重要な要件となっています。
旅館業法第3条第1項の許可
旅館業の許可を受けていることが大前提です。所有者(オーナー)と運営者が異なる「所有直営方式」などの場合、実際に設備の導入費用を負担し、かつ運営を行っている主体が申請者となります。
なお、民泊(住宅宿泊事業法)や風俗営業は対象外ですので、まずは許認可種別が該当するかをご確認ください。
「地域との連携」という必須条件
本補助金は、地域一体での求人活動など、人手不足解消のための具体的な取組を、所在地域のDMO、地方公共団体、観光協会等と連携して行っている(または予定している)ことが必須です 。
施設が所在している地域のDMO・地方公共団体・観光協会・宿泊団体支部・公立学校などと協力して説明会・セミナーの実施やイベントの開催などの実績が必要です。取組実績がない場合は取組予定でも可とされています。
申請スケジュール
本補助金は、一般的な補助金とは異なり、「参加申込」をしてから「事業計画」を提出するという、2段階のステップを踏む必要があります。
①参加申込(令和8年3月27日〜5月22日)
まず、事務局の特設Webサイトでメールアドレスを登録し、マイページを開設します。これが「参加の意思表示」となります。5月22日を過ぎると、その後の本申請ができなくなるため、注意が必要な期限です。
②計画申請(令和8年3月27日〜5月29日)
参加申込を済ませた後に、具体的な導入設備や収益改善の見通しをまとめた「事業計画書」を提出します。申請は特設サイトの申請フォームから行います。
補助金額
宿泊施設ごとにまとまった投資ができるよう、高額な補助枠が設定されています。
- 補助上限額:1,000万円(1施設あたり)
- 例えば、1億円の投資であっても上限は1,000万円となります。
- 補助率:1/2
- 2,000万円の設備を導入した場合、1,000万円が補助され、実負担は1,000万円となります。
- 対象施設数:1事業者につき最大3施設まで
- 複数の旅館やホテルを運営している法人であれば、合計で最大3,000万円(3施設分)の補助を受けるチャンスがあります。
導入できる設備
本補助金では、投資内容により2つの区分(区分Aと区分B)に分けられます。この区分によって申請準備が異なり、区分Bの方が若干手間がかかります。
区分A:あらかじめリストアップされたシステムや製品から選ぶ
公募要領の「別紙1」に掲載されているシステムや製品型番は区分Aとされ、これらは事務局がすでに「省力化効果がある」と認めているため、「なぜこの製品が必要か」という理由を文章で書く必要がありません。具体的には以下への投資が区分Aに該当します。
- フロント関連: セルフチェックイン機やスマートロック、自動精算機、多言語翻訳機など。
- バックオフィス関連: PMS(ホテル管理システム)やサイトコントローラー。
- 厨房関連: 特定メーカーのスチームコンベクションオーブン。
なお、PMSやサイトコントローラーなどは月額サービスが多いですが、こうしたサブスクリプション型の経費については、最大 2 年分の費用が補助対象となり、前払いが可能で、完了実績報告時までに支払いが完了するものに限られます。
区分B:人手不足解消に資するその他のシステム・設備備品
リストにない製品でも、宿泊施設の運営に不可欠で、かつ省力化に繋がるものであれば対象になり得ます。ただし、こちらは「導入によってどれだけ労働時間が削減できるか」などの具体的な理由を説明する必要があります。
採択に有利な優先審査の活用
予算には上限があるため、審査では「優先順位」がつけられます。以下の2点を行うことで、採択の可能性が高まります。
- 省力化アンケートへの回答: 参加申込後に届くメールから、人手不足の現状に関するアンケートに回答する
- 「省力化ナビ」診断の実施: 中小機構が提供する「省力化ナビ」で自社の状況を診断し、その結果をPDFで提出する。これにはGビズID(プライムアカウント)が必要ですので、持っていない方は事前に発行手続きをしましょう
申請に必要な書類
他の補助金と異なり、申請に必要な書類は少なめです。必須で必要となるのは以下の書類です。
- 事業計画書(申請時にフォームへ直接入力)
- 設備等導入前の写真
- 旅館業法上の営業許可証の写し
- 見積書・相見積書
- 見積もりが1社の場合は業者等選定理由書を提出
- カタログなど導入予定の設備等についてわかるもの
確認しておきたい注意点
補助金の申請にあたり、あらかじめ必ず確認しておきたい注意点は以下の3点です。
交付決定前の発注はNG
本補助金では事前着手は認められません。したがって、申請して「特定(採択)」の通知が届いても、まだ発注してはいけません。その後の「交付申請」を経て、交付決定通知が届いてから初めて契約・発注・支払いが可能になります。 これ以前にお金が動いていると、補助金は1円も受け取れません。
立替えが必要になる
補助金はすべての投資を終え実績報告を完了した後に支払われます。よって、一時的に立替えが必要となりますが、本補助金は比較的補助金額が高めですので、自己資金で賄いきれない場合は融資など資金調達の目途をつけておく必要があります。
補助金で購入した設備は処分が制限される
補助金の原資は言わずもがな税金です。不正利用を防ぐため、単価 50 万円 (税抜き) 以上の機械装置等は、一定期間において補助対象事業目的外での使用、譲渡、担保提供、廃棄などの処分が制限されます。
申請の検討でチェックしておくことまとめ
これまで説明してきた内容をもとに、申請の検討段階でチェックしておきたい5項目をまとめました。
- 旅館業法第3条第1項の許可証が手元にあるか
- 地域(DMO等)との連携内容を整理できているか
- 5月22日までに「参加申込」を済ませるリマインドをしたか
- 投資内容について2社から見積もりは取れるか
- GビズIDを取得しているか(またはできるか)
この補助金は、宿泊業界にとって「攻め」の投資を行う絶好の機会です。公募要領を熟読し、不備のない計画を立てて、強固な経営基盤を築きましょう。
詳細な手続きや指定製品リストについては、必ず特設サイト(https://kanko-jinzai.go.jp/)の最新情報を確認してください。


